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 蛇のうろこは固い。ましてや街一つ飲み込みかねない大蛇ともなれば、鋼鉄にも勝る強固さを誇っている。普通の武器では傷一つ付けられないだろう。


 しかしステラが持つ勇者の剣は、金にものを言わせて作った特注品だ。大蛇のうろこだろうと、パンをスライスするのに等しい。かさぶたを剥がすような手軽さで、ステラはラミアの体からうろこを剥いだ。その下に現れた皮膚の柔らかい部分を剣でえぐる。


 「いだっ、いだだだだ!」

 

 顔は完全に蛇になっているが、発せられる声は女性の姿をしていた時のラミアのままだ。そのちぐはぐさが、妙に気味悪い。

 

 「いやらしい攻撃やめなさいよ。それでも勇者なの?もっと真向から向かってくるとかでしょう、普通は」

 

 「どこの馬鹿がお前みたいな化け物と真っ向勝負するんだ。私を背中に乗せたのは間違いだったな。このまま地味にうろこを剥いで、丸裸にしてやるよ」


 正義なんてステラの辞書にはない。要は勝てばいい。ラミアを街に進行させてしまったら、勇者の特権をはく奪されるばかりか、行く先々でお尋ね者扱いを受けてしまう。そんな事態になるのを避けるためなら、どんな格好悪い戦い方でもしてやる。


 「おら止まれ!止まらないと、うろこくらいじゃ済まなくなるぞ」


 「ステラ様…。ちょっと卑劣すぎやしませんか」

 

 「地味な痛みの蓄積ほど効くんだよ。想像してみろ。せっかく治りかけた傷口を、針でぐちゅぐちゅ抉られる感覚を」

 

 「ひぃぃ…」

 

 痛みをリアルに想像してしまったのか、ミアが身震いした。


 「ぐっ…、いい加減にしろ!」

 

 ラミアが咆哮とともに、周囲の木々を薙いだ。危機を察した鳥が逃げようとしたが一歩遅く、羽毛まみれの肉塊と化す。一面緑だった景色から色が失われ、ずいぶんと空が広くなった。

 

 衝撃でステラたちは吹き飛ばされ、地面に激しく叩きつけられた。

 

 「みんな無事か!」

 

 「私は大丈夫です。リュカ様、リュカ様は?」

 

 「ここにいますよ。ケガはありません」

 

 さすがにリュカも冷静さを取り戻しつつあった。いつまでもめそめそされていては堪ったものじゃない。

 

 「誰か僕の心配はしないんですか」

 

 お互いの無事を確かめるように、腕や肩を触れ合うミアとリュカ。誰もロメオの安否にまで気を配っていなかった。

 

 街まではあと数キロといったところだ。ここでラミアを食い止めないと、いよいよ事態は最悪の方向へ転がってしまう。

 

 だがラミアを追いかける必要はなかった。舌を左右にちろちろ動かしながら、ラミアのほうからこちらへ向かってきたのだ。4人まとめて仕留めるつもりか。

 

 「そうそう、忘れてたわ。お探しの呪いの鏡を見せてあげるって言ったわよね。いいわ、ここでお披露目といこうじゃない」

 

 「うっ、なんだ⁉」

 

 眩い光が炸裂し、視界が真っ白になった。網膜に熱を感じる。激しく瞬きをして視力を回復させようとしても、水の中にいるようにぼやけてしまい、うまくラミアの姿を捉えることが出来ない。今攻撃されてはまずい。ミアの安全だけでも確保しなくては。

 

 視界不明瞭のほぼ手探りのような状態で、近くにいた誰かの手を掴む。ミアであってくれと願ったが、明らかにそれは女性の肌ではなかった。


 「お前ロメオだな」

 

 「ミアちゃんかと思いましたか。残念、僕です」

 

 「触るな」

 

 「そっちが掴んできたんでしょう」

 

 「私たちは今なにをされたんだ?あの光は一体…」

 

 よく見えないのをいいことに、ロメオが顔を近づけてくるのが息遣いで分かった。

 

 「気をつけてください。禍々しい呪いのオーラを感じますよ。リュカちゃんの時やミアちゃんに呪いがかけられたときとは比べ物にならないほどの、強大さです。専門家的に言わせてもらうと、あれやばいです」

 

 「やばいのは私でも分かってるよ。問題はあれがなんなのかって話」

 

 徐々に視界が戻ってきたので、ラミアのほうを向こうとしたステラに、珍しく鋭い声でロメオが言う。

 

 「見ちゃダメです!」

 

 思わず肩がびくりと震えた。

 

 「ラミアちゃんが見せるって言ってた呪いの鏡。あれが今、僕らの目の前にあるんですよ」

 

 「鏡なんてどこに…」 

 

 「僕の目を見てください」

 

 言いながらロメオは片目を開けた。ステラは至近距離でロメオの目を覗き込む。


 「なっ、それどうしたんだ。血が出てるじゃないか!」

 

 ロメオの左目からは、血がどくどくと流れ出ていた。いや、それだけではない。眼球があったはずの場所には、空虚な穴が空いている。

 

 「いやあ、さっき一瞬見ちゃったんですよ。呪いを纏ったラミアちゃんの姿をね。でもほんの1秒くらいですよ?なのに目がつぶされちゃって。困ったもんですよねえ。そうそう、今のラミアちゃんなんですけど…、体中のうろこが全部鏡になってます」


 「見たら死ぬ鏡って、ラミア自身のことなのか!」

 

 「幸い死にはしませんでしたが、1秒見ただけでこんなになっちゃうなんて、相当強い呪いですよあれは。3秒見続けたら間違いなく死にますね」

 

 片目が潰されたとは思えない余裕に見えたが、ロメオの息が荒くなってきている。飄々とした雰囲気を装っていても、さすがに耐えられる痛みではない。

 

 「お前の犠牲は無駄にしないよ、ロメオ。あとは目を閉じてゆっくり休んでくれ」

 

 「えっ、死ぬ感じ出すのやめてくれませんか」

 

 「あとは私が片をつける」

 

 「そうっすか。じゃあお言葉に甘えて…」 

 

 両目を閉じて横になったロメオは、30代前半という実年齢よりも老けて見えた。

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