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 一撃の重さはステラに劣るが、斬撃のスピードはリュカのほうが上だ。ミアが敵に捕われているという危機感から、通常よりも速さを増したリュカは、もはや速いなどという次元を超えていた。ステラの横にいたはずのリュカが煙のように消えたかと思うと、ラミアの両腕が地面に落ちた。

 

 「ぐっ…、これじゃ僧侶ちゃんを抱けないじゃない」

 

 斬り落とされた腕の断面から血は出ていない。一度死んだ時に全身の水分を抜かれてミイラにされているので、体の中もそのままなのだろう。あるとすれば、ステラが口移しで飲ませた蒸留酒くらいだ。


 「ミア様、ご無事ですか!」

 

 「だめです、私に触ったら呪いが!」

 

 リュカとミアの間に赤い稲妻が炸裂した。


 「離れてください!リュカ様の体が…」

 

 「…離しません。あの蛇女にミア様は渡さない」

 

 稲妻がリュカの全身を駆け巡っていく。相手は呪いだ。痛みという概念を超えた、抵抗しえない力のはず。鍛え上げたステラの肉体でさえも歯が立たなかったというのに、リュカは耐えている。ミアの頭を抱き寄せて離そうとしない。

 

 「おいロメオ、君は呪いの専門家だろ!あれ解除できないのか⁉」

 

 戦闘が始まってから、まるで壁と同化したように無関係を決め込んでいたロメオを怒鳴りつけた。戦闘能力が無いとはいえ、仲間の危機を静観しているだけとは、性根の腐った男だ。

 

 「できるわけないじゃないっすか。そりゃあね、呪いや魔法は術式の組み合わせで出来てるもんですから、長年かけて解読すればあるいは…って感じですけど。この状況で即座に解除なんて無理無理。僕をなんだと思ってるんです。ちょっと魔法が使えるだけのしがない商売人っすよ」

 

 「役立たたずめぇ…」

 

 こうしている間にもリュカの体は呪いに蝕まれている。時は一刻を争うというのに、ロメオが場違いなことを言い出した。

 

 「呪いを解く定番の方法があるじゃないですか。真実の愛のキスってやつ。おとぎ話じゃあ、とりあえずキスしときゃ解決っすよ」

 

 「それでも専門家か。これはおとぎ話じゃないんだぞ!」

 

 激昂したステラがロメオの胸倉を掴んだのと同時に、ミアの口が塞がれた。

 

 「ん…」

 

 ロメオの間抜けな考えを、リュカが実行に移したのだった。

 

 「うっそだろ」

 

 「いやはや、見ものですよ!どうなりますかね、これ」


 ミアにかけられた呪いを解けば、リュカを襲う稲妻も消える。呪いの大元を絶とうというリュカの考えはもっともだが、ロメオが適当に口にした方法なんかで打ち消せるわけがない。


 「私の僧侶ちゃんの唇、勝手に奪わないで」

 

 ラミアの放った蛇が、まさに口づけの真っ最中の2人に向かって伸びていく。ステラは蛇の頭を掴んで折り曲げた。指先から生えた蛇と神経がつながっているらしく、ラミアは痛そうに顔をしかめた。


 「お前のじゃない。ミアが誰のものかという点に関しては、パーティー内でも議論の最中なんだ。私としては相思相愛の2人を見守っていたいが、完全に保護者の立場に徹するほどこっちも大人じゃないんでね。たまにはミアに甘えられたいし、リュカの悔しがる顔も見たい。だがラミア、お前にあの子は渡さん」


 「力ずくで奪ってやるわよ。僧侶ちゃんのナイト様は、もう虫の息だしね」

 

 リュカは呪いを浴びながらも、ミアを抱きしめ、口づけをしたまま動かない。あの強力な呪いを受け続けていては、いくらリュカといえど肉体の限界が来る。やはりキスなど意味はなかったのだ。

 

 「あ…」

 

 リュカがついに力尽きた。彼女の皮膚から焦げたにおいが漂ってくる。

 

 「リュカ様、いや、目を開けて!」

 

 「茶番は終わりね。こっちへいらっしゃい、僧侶ちゃん。あなたは魂の入れ物。ソフィアの人格を宿した、私の新しい侍女となるの」


 ラミアに引き寄せられ、倒れたリュカを揺さぶっていたミアが離れていく。


 「渡さないと言っただろ!」

 

 呪いが発動するのは承知の上で、ステラはミアを捕まえて、力いっぱい抱きしめた。鋭い痛みに襲われ、筋肉が硬直する。

 

 「…っ、ミア、安心しろ。あいつの好きにはさせない」

 

 「だめ、このままじゃステラ様も…きゃっ」

 

 脳の指令が遮断され、思うとおりに筋肉を動かせなくなったせいで、ステラはミアに覆いかぶさるようにして倒れてしまった。

  

 「んぅっ⁉」 

 

 狙ったわけではないし、邪な気持ちなど微塵もなかったことは誓う。誓うが、倒れた拍子にミアにキスをしてしまった。不可抗力というやつだ。


 「あのー、それ無駄ってわかったじゃないですか。発案者の僕がいうのもなんですけど」

 

 口づけをしている場合ではないのは分かっているが、体が動かせないのだ。筋肉の重量のせいで自分の倍以上の体重があるステラを、下敷きになったミアが力で退かせることもできない。

 

 ぶつくさ言いながら、ロメオがステラを引きはがした。


 「ちょっと、そういうのは後にしてくださいよ。リュカちゃんは戦闘不能だし、ステラさんしか戦える人いないんですから、しっかりして…、あれ?ステラさん、もうビリビリしてなくないっすか。もしかして、呪い解けてます?」 

 

 「え…?あ、ほんとだ」

 

 赤い稲妻はもう走っていないし、体も痛くない。ミアの首筋にあった蛇の模様も消えている。


 呪いが解けている。

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