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 羞恥心を紛らわそうと、度数の高い蒸留酒を呷ったのが間違いだった。一度飲みだすと止まらないのがステラの悪い癖だ。その酒はラミアが生まれる前から熟成されていたらしいので、少なくとも500年以上の歴史が刻まれている逸品だ。なんの有り難みもなく、浴びるように飲んでいい代物ではない。 

 

 「お、お前正気か?こういうのはもっとちびちびと飲むもんでしょ!」

 

 ラミアが狼狽するのも無理はない。ステラが貴重な酒を、まるで水のように飲み干していくのだから。

 

 「うるっさいなあ、ド変態女王様。お前の悪趣味なプレイに付き合ってやったんだから、酒くらい飲ましてくれてもいいだろうが」

 

 「奉仕と呼びなさいよ」

 

 「足舐めさせて酒を口移し、これのどこが奉仕なんだ。ああ分かったぞ。お前私に気があるんだろ。あれか?出会い頭に体をまさぐられて、コロッと落ちたのか。なーにが女王だよ。笑わせんな」

 

 金のためと思って我慢してきたが、もう限界だ。酒の入ったステラにまくし立てられ、ラミアは返す言葉を失った様子で口をパクパクさせている。こういう時だけ女王然として、無礼者と一括すれば、また小物っぽいとロメオにバカにされる。かといって何も言わないでいると、ステラの言葉を認めることになる。先程まで優位に立っていたはずなのに、ラミアは逃げ場を失っていた。


 「えぇ…ステラさんってお酒入るとあんな感じになるんすか」


 「お恥ずかしいです。うちの勇者が」


 「敵地で酔うと危険だとマダムとの戦いで学んだはずなのに、どうしてまた飲んでしまうのでしょう。まだまだステラ様を理解できそうにありません」

  

 普段ならフォローに回ってくれるリュカでさえも、ついにさじを投げた。仲間内からの評価が下降していることにも気づかず、ステラは残りの酒を一気に飲み込んだ。

 

 「お望みなら…っひっく…好きなだけ舐め回してやろうか?おい逃げんなよ。それ、捕まえた」

 

 「放して!なにこいつ、力つよっ!」


 ステラはラミアの体に覆いかぶさり、褐色の手に指を絡ませた。ミアほどではないが、ステラも色白なほうだ。対象的な2色の肌が絡み合い、一つの模様のようになっている。

 

 「た、助けて!誰かこいつを止めてよ!」


 「申し訳ありません、ラミア様。私たちではどうすることもできないのです。身をもって体験されているのでお分かりかと思いますが、その人、馬鹿力なんです。おそらく3人がかりでも動きません」

 

 ミアは助けようとする素振りも見せなかった。


 「あぁっ、ちょっ…ほんとごめん、謝るから!ひっ…やぁ!」

 

 酒によって理性のタガが外れたステラに、ラミアは成すすべなく蹂躙された。女王の威厳など微塵も感じさせない、情けない悲鳴が埃っぽい地下空間に響きわたった。

 

 リュカが再びミアの目を覆い隠し、ロメオは黙って微笑んでいた。

 

 

 30分にも及ぶステラの猛攻が終わり、精根尽き果てたラミアは、もはやただの抜け殻のようになっていた。ミアが酔いつぶれたステラをベッドから降ろし、はああ、と大きなため息をつく。酩酊した頭でも、そのため息からにじみ出る呆れの感情が、嫌というほどに伝わってきた。


 「まったくしょうがないですね。本当はこんなことに魔力を使いたくないんですけど、ここでステラ様が倒れたままだと困りますから」

 

 体が芯から温まる感覚がする。ステラはこの心地よい温度を覚えていた。マダム・シスルとの戦いで怪我を負った時、ミアがかけてくれた治癒魔法だ。寒空の下で焚き火に手をかざした時のような安心感。しかし怪我をしていないのに、なぜミアは治癒魔法を…。

  

 「…ん」

  

 「頭がスッキリしましたか、ステラ様」

 

 「不思議だ。さっきまであんなに視界がグラグラして、今にも吐きそうだったのに。まるで酒なんて飲んでないみたいに気分が爽快だぞ。まさか治癒魔法って、アルコールも抜けるのか?」

 

 「普通は抜けませんよ。私なりに研究して、魔法を改良したんです」


 「私のために?」

 

 ミアがむっと頬を膨らませた。

 

 「ステラ様と旅を続けるなら、必要な処置だと思っただけです」

 

 なんだこいつは。ずいぶん憎まれ口を叩くようになったが、やはり根底にある可愛さは変わっていない。愛おしさを抑えきれず、ミアの栗色の髪が乱れるくらいに撫でてやった。

 

 「ぐしゃぐしゃにするのやめてください」

 

 予想通り嫌がられてしまった。


 そんな2人のやり取りを見ていたラミアが、ぼそりと呟いた。 

 

 「いいなあ…」

 

 「なにか言ったか?」

 

 「慕ってくれる子がいるの、羨ましい。私にはもう、侍女はいないから」


 部屋の隅に置かれた棺を、ラミアが寂しそうな目で見つめた。

 

 「そういえばお前の侍女とやらはどんな子だったんだ」

 

 「とても素直でかわいい子だったわ。私を心から慕ってくれて、いつも懸命に尽くしてくれた。身も心もすべて私に捧げる、あの子はそう誓ったの」

 

 愛おしそうに棺を撫でるラミア。おそらくあの中に眠っている死体が、ラミアの侍女なのだろう。先ほどまでの乱痴気騒ぎが嘘のように、室内はしんと静まり返った。リュカが気まずそうに足を組み替えるたび、鎧が金属的な音を立てる。

 

 「ラミア様はこうして現代に復活されていますよね。それって魔法かなにかの影響なんでしょうか」


 あまりに当然のように話して動いていたものだから疑問に感じなかったが、ラミア自身が言っているように、彼女が生きていた時代は今から400年は前のことだ。一度死んだラミアに、なにが生命を再び吹き込んだというのだろう。

 

 ミアの問いかけに、ラミアはふっと口元を綻ばせた。

 

 「簡単よ。死者を復活させるには、生贄さえ捧げればいい。ちょうどあなたたちが来る前に、財宝目当ての墓荒しがやって来てね。彼らは死者蘇生の方法を知ってたのよ。ひどい話だけど、幼い子供を生け捕りにして遺跡まで連れてきた。私を復活させて、宝のありかを聞き出そうとしたんでしょうね。狙い通り生贄の儀式は成功したわ。それで私がこうして復活したわけ」

 

 「幼い子供を犠牲にするなんて…」

 

 「もちろんそいつらは殺したわ。宝なんて一つも奪わせずにね」

 

 それがせめてもの救いだ。生贄にされた子供は浮かばれないだろうが、ラミアが仇を取ってくれたようなものだと思えば、少しは気楽にあの世に行けるだろう。

 

 「あっ、僕いい事考えたんですけど。生贄を捧げれば、ラミアちゃんの侍女も復活できるんですよね?」

 

 「おい、なんて事言うんだロメオ。まさか生贄になるつもりか」


 「いや、例えばそのへんの虫とか使えないかなと思って」


 ロメオは壁を這っていた虫を器用に摘まみ上げた。黒々と光る甲冑のような体に、棘のついた脚が6本。ロメオに捕まり、空中で脚をジタバタさせている。


 「ダメに決まってるじゃない。私の侍女と虫けらの命が同等だとでも?」

 

 「ですよねえ」

 

 ロメオが放り投げた虫が、リュカのうなじに飛び移った。

 

 「ひゃぁん⁉」


 リュカがまた女々しい悲鳴を上げた。

 

 「でも生贄か…。そうか、命を捧げれば復活できるんだ。あの子が、また私に尽くしてくれるんだ」

 

 「ラミア?」

 

 ラミアの目は虚ろになり、棺を漠然と見つめている。

 

 「生贄…生贄…。ねえ、誰か名乗り出る者はいない?我こそは生贄になるという、崇高な意思の持ち主は」

 

 冗談を言っているふうには聞こえなかった。ステラは剣の鞘に手をかけた。

 

 「あいにく私のパーティーに自己犠牲などという言葉はない。交渉するつもりなら無駄だ」

 

 「そっか…」

 

 随分と聞き分けのいい女王だ。そう思ったのも束の間。

 

 「あぐっ!」

 

 ラミアの指から伸びた蛇が、ミアを締め上げた。

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