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 「うぅ…汚された。私の純情と口の中が…」

 

 ようやくラミアの足から口を離すことが許された。数百年かけて繁殖した雑菌を洗い流そうと、リュカから受け取った水で口をゆすぐ。どれだけうがいをしようとも、口の中が綺麗になっている気がしない。

 

 「お疲れ様でした、ステラ様。その、ご立派でしたよ」

 

 リュカの声色から、明らかに気を遣って言っているのが伝わってくる。勇者ともあろう者が、薄い布切れを身にまとって他人の足を舐めさせられたのだ。心の中ではさぞかしステラを憐れんでいるのだろうが、リュカは必死に笑顔を取り繕っている。その気遣いが逆に心苦しい。

 

 「ミア、これで満足か。もうギャンブルで全額すったことは水に流してくれよ」

 

 「ええ、まあいいでしょう。普段は勝気で乱暴なステラ様のあんな姿、滅多に見られるものじゃありませんから」

 

 ミアの溜飲が下がったことは喜ばしいが、ステラの尊厳はひどく傷つけられた。だがこれでラミアの要求にも応えたわけだし、とっとと呪いの鏡をもらって帰ろう。換金すればいくらになるだろうか。


 「約束だ。その鏡とやらを早く渡してくれよ」

 

 口を拭いながら吐き捨てるように言ったステラに、ラミアは片方の眉を吊り上げた。


 「まだ終わってないけど?女王への奉仕がこんな簡単に済むと思ってるの?」

 

 「家畜みたいにお前の足を舐めたんだぞ!もう十分すぎるくらいだろ」

 

 「喉が乾いた」

 

 「あん?」

 

 「お酒が飲みたい気分ね。そこの棚に蒸留酒が入ってるから、飲ませてくれる?」

 

 ベッドに寝転びながらラミアが顎で示した棚を開けると、そこには真鍮のボトルが3本並んでいた。ボトルには緑の錆が浮いており、触るとザラザラした感触がする。

  

 「ちょうど酒でも飲まないとやってられない気分だったんだ。私も一杯もらっていいか?いいよな?飲むぞ?」

 

 「いいけど私が先よ。こっちに来て飲ませてちょうだい」

 

 「グラスはどこだ。見当たらないが」


 「そんなもの用意してない」

 

 「じゃあラッパ飲みか。女王のくせに下品だな」

 

 ステラが酒をラッパ飲みしていると、毎度ミアが小言を言ってくる。コップがあるんだから注いで飲んでください、と何度注意されたことだろうか。別に同じボトルを回し飲みしているわけでもないのだから、ステラの飲みさしに潔癖症のミアが口をつけることもない。なのになぜか、ラッパ飲みはミアからすれば目に余る品のない行為だそうだ。ミアに怒られたことを棚に上げて、ステラはラミアの品性を批判した。

 

 「誰がそんな飲み方するか。そうじゃなくて…」

 

 ラミアは下唇に指を当て、わざとらしいくらいの艶っぽい表情をしてみせた。

 

 「あなたが飲ませるのよ。口移しで」

 

 「く、くち…お前、自分が何言ってるか分かってるのか!」

 

 「それが女王への奉仕ってもんなの。さ、まずはその酒を口に含みなさい」

 

 どうも冗談で言ってるようには思えない。しかしこれも奉仕の一環というのなら、ラミアの要求に応え無い限り、呪いのアイテムを譲ってもらうこともできない。


 「金のため、金のため…」

 

 再び自分に言い聞かせるステラ。この呪文も、いつまで効果を発揮してくれるか分かったものではない。我に返ってしまっては終わりだ。なんとか意識を金に結びつけなくては。

 

 ボトルの蓋を開けると、木の樽で熟成された香りが一気に解き放たれた。薬品臭ささえ感じる、ツンとした匂い。一気に飲むと、悪酔いしてしまいそうだ。ボトルを傾けて、中身を口に流し込む。舌がピリリと痺れた。だが味は絶品だ。本来ならつまみと一緒に優雅に味わいたいところなのだが、口を開けて待っているラミアが目の前にいる。まずはこいつに飲ませなくてはならないのだ。

 

 「んぅ…」

 

 足を舐めたステラに怖いものなどない。今さら口づけくらいなんだ。酒を含んだまま、ラミアにキスをするステラ。ベッドに放り出されたラミアの足が、もじもじと交差した。

 

 「見てはいけません、ミア様には刺激が強すぎます」


 「ちょ、目を覆わないでください。さっきあんなの見たんだから、もうなにが起きても一緒ですよ」

 

 「そうそう、ミアちゃんもこういうの見慣れとかないとね。大人の階段を一歩登った気になれるでしょ」

 

 「ぷはぁ…」 

 

 ステラの口の中にあった酒を飲み干したラミアは、うっとりとした顔つきになった。早くも酔いが回っているのか。

 

 「飲まなきゃやってられん。私も飲むぞ!」

 

 ステラはまだ半分以上残っているボトルの中身を一気に喉に流し込んだ。喉が焼けるように熱いが、アルコールの力を借りないと正気を保っていられない。こんなふざけた奉仕とやらを、当時の侍女たちは毎日していたというのか。生まれた時代がラミアと同じでなくて良かったと、心から思った。

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