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 専門家という職業なんて、名乗ったもの勝ちだ。実際にその分野に特化した能力や知識を有しているかは定かではない。呪いの専門家を名乗るロメオに対しても、ステラはまだ不信感を拭いきれずにいた。一応はリュカにかけられた呪いを解除してみせた実績はあるが、それだけで全幅の信頼を置くわけにはいかない。呪いのアイテムを売りさばき、分け前を頂戴するためにここまで付いてきたのは、果たして正解だったのだろうか。見ると死ぬ、という至ってシンプルだが強烈な呪いの存在を黙っていたロメオに、ステラは疑いの目を向けざるを得なかった。

 

 「まさかとは思うが、私たちを利用するだけしておいて、目当てのものを手に入れたら呪いで始末する…なんてこと考えてないよな?」

 

 一体いくらで売れるのか知らないが、ロメオいわくこの商売は儲かるらしい。呪いのアイテムを欲しがるマニアは国中に存在し、彼らは金に糸目を付けないという。ステラたちと報酬を折半しても十分な額は残るだろうが、出来ることなら独り占めしたいというのが本音だろう。

 

 ステラの邪推にもロメオは不快感を表すでもなく、ただ平然と首を振るだけだった。

 

 「やだなー、そんなわけないじゃないっすか。商売人ってのはね、誠実さが売りなんですよ。悪いこと考えてるやつのところには、お客さんも来ませんって。僕を信じてくださいよ」

 

 「じゃあ隅っこにある鏡、4つのうちどれでもいい。本当に無害だというなら、覗いてみてくれないか」

 

 墓室の四隅に設置された鏡には呪いが込められていないとロメオは言っていた。ステラは鏡を視界に捉えないようにしており、リュカも視線を下に向けながら、ミアの両眼を塞いだままだ。一瞬でも目にしただけで死ぬというなら、墓室に入った時点で4人とも死んでいるはずだが、今のところは全員無事だ。しかし一定時間覗き込むなど、なにか呪いの発動条件があるのかもしれない。大丈夫だと豪語するなら、まずはロメオに試してもらって、安全性を確かめるのが一番だ。


 「いいっすよ?それで僕のことを信用してくれるならお安い御用です」

 

 ロメオは鏡の表面に付着した埃とクモの巣を手で払って、一切の躊躇なく、左右真逆の世界に映る自分を覗き込んだ。暢気に手まで振っている。なるほど、確かに呪いは込められていないようだ。

 

 「リュカ。もうミアの目を隠さなくても大丈夫みたいだ」

 

 視界に光が戻ったミアは、少し名残惜しそうに見えた。リュカともっと密着していたかったのだろう。あとで好きなだけイチャイチャすればいい。問題は、見ると死ぬ鏡とやらがどこにあるかだ。

 

 さらに奥に続く通路は見当たらないので、おそらくは部屋の中心にある石の棺。これ見よがしに置かれている棺の中に、呪いのアイテムが眠っている可能性が高い。あまりに露骨すぎる気もするが、呪いを封印したのは大昔の人間か魔物だ。所詮古い人間の考えることなど、たかが知れている。現代人からすれば、古代人の隠したものを見つけることなど、赤子の手をひねるより簡単なのだ。

 

 先人へのリスペクトを欠いたステラは、何気なく四隅の鏡の一つを覗き込んだ。そこに映る自分からは相変わらず女性としての品格を感じないが、ミアに出会ってからは、これでも少しはマシになったほうだ。一人旅をしていた時代は、髪が乱れていようと、何日体を洗っていなかろうと、文句を言う人は誰もいなかった。だが今は、ミアが母親のように口うるさく言ってくる。そのせいで体を洗う頻度は少し増えたし、勇者としての見てくれも気にするようになった。ちょっとは女らしくなったのではないか。

 

 「なにを鏡見てニヤニヤしてるんですか」

 

 鏡越しに、呆れたようなミアの顔が映った。

 

 「いい女が映ってると思ってな」

  

 「はあ、そうですか」

 

 それだけ言って、ミアは去っていった。深紅のドレスを着た時は美しいと褒めてくれたのに、随分と冷たいものだ。

 

 「ひゃぁっ⁉」 

 

 「リュカ、何だ今の女の子みたいな悲鳴は!」

 

 「リュカ様は女の子ですよ!」

 

 あまりに凛々しいものだから、時たまリュカの性別が女であることを忘れそうになる。悲鳴を上げた本人は両腕で体を抱き、下手なダンスを踊るみたいな動きをしていた。

 

 「へ、蛇が服の中に!いきなり降ってきたんです!」

 

 「蛇?」 

 

 ステラは頭上を見上げた。天井の模様が蠢いている。いや、模様ではない。無数の蛇が天井を這っていた。

 

 「きもっ…」 


 ステラの言葉に反応したように、蛇たちが一斉に同じ方向を向いた。赤く光る目は、しっかりステラを捉えていた。

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