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奥へ進むにつれて、外部から差し込む光が薄くなってゆく。まだお互いの顔を認識できるくらいの明るさはあるが、視界が不明瞭というだけで一気に不安が増してくる。こんな状況でまた罠が発動したら、今度こそ避けきれないかもしれない。遺跡の中で死のうものなら、誰にも発見されずに白骨化して、数十年後、下手すれば数百年後に出土するなんてことも。

 

 嫌な想像が頭を駆け巡る。暗いところは好きじゃない。ステラは額に浮かぶ冷や汗を拭い、不安を悟られないように努めた。こんな時、酒でもあれば気が楽になるのに。 


 「ここの階段を降りていくみたいっすね。じゃ、行きましょうか」

 

 遺跡の構造について、ステラたちよりも知識のあるロメオが先陣を切って進んでいた。その彼が振り返り、地下へ続く階段を指し示した。まるで酒場に立ち寄るような軽い言い方だが、ステラは階段の続く先を見て声を詰まらせた。

 

 「なあ…この階段、どこに続いてるんだ?」 

 

 「さあ、多分ですけど墓室じゃないっすか?ここの遺跡って、なんか偉い女王様の墓らしいんですよ。僕も詳しくは知らないですけど、大事なものは大抵地下の奥深くに保管されてるもんです。この階段は見たところ地下に繋がってますし、きっと目当てのアイテムもそこにありますよ!」

 

 階段は下へ、下へと伸びている。数歩先は、もう光が届かない。完全な暗闇だ。


 ステラはさり気なく、列の最後尾に移動した。それまで一番後ろにいたミアの肩を掴んで、先に進むように促す。

 

 「え、なんですかステラ様。ちょ、押さないでくださいよ」

 

 「暗いの嫌いなんだよぉ」

 

 「勇者の癖に情けない!」


 「私にだって怖いものの一つや二つ、あってもいいじゃないか。勇者とはいえ、うら若き乙女なんだぞ」

 

 なかなか階段を降りようとせず、言い合いを続けるステラとミア。埒が明かないと判断したリュカが仲裁に入り、もっともな提案をした。

 

 「灯りを点けて進めばいいじゃないですか。私、ランタン持ってきてますから」

 

 「さすがリュカ、準備がいいな」

 

 「ちょっとお待ちくださいね。今灯りを…」

 

 荷物をガサゴソと探っていたリュカの動きがピタリと止まった。

 

 「どうした」

 

 「ステラ様、怒らないで聞いてくださいますか」

 

 「怒るかもしれないが、まあ言ってみろ」

 

 「ランタン…忘れてきました」


 薄暗くてよく見えないが、リュカはきっと申し訳なさそうな表情をしているのだろう。眉尻を下げて、少し怯えたような顔。ああいう時のリュカはいじらしく、怒るに怒れない。だがそれは、明るいところで彼女の表情が見えている時の話だ。視界が不明瞭な今なら、ステラも強気に出られる。

 

 「なーにをやってるんだ、リュカ!戦場では準備不足が命取りになるんだぞ!」

 

 「も、申し訳ございません」

 

 「自分のことを棚に上げてリュカ様を怒るのはやめてください。そういうステラ様は灯りを持ってきてるんですか?」

 

 リュカとの気まずい関係を修復し、すっかり元通りになったミアが庇うように言った。

 

 「持ってないよ。まさかこんなに暗いとは思わなくて。じゃあミアは持ってるのか?」 


 「持ってません。私の鞄、そんなにいっぱい入らないので」

 

 「ロメオ!君なら持ってるだろ?」

 

 「いやいや、そういうのって旅の人の必需品でしょ?僕はてっきり誰かが持ってるもんだと思ってました」

 

 薄闇の中で4人は顔を見合わせた。

 

 「じゃあ…誰も持ってないってことですか」

  

 責任の一端はリュカとロメオにもあるはずなのに、なぜかミアはステラだけを非難するような目で見てくる。いったん取りに帰るのも面倒だし、そんなことをしていては日が暮れてしまう。こうなったら、一筋の光も刺さない暗闇の中を手探りで進むしかない。考えるだけで動悸が早くなるが、他に手段がないのだから仕方がなかった。

 

 ステラは苦し紛れに、一つの提案をした。

 

 「暗闇の中ではなにが起きるか分からない。はぐれないように、お互い手をつないで行動しよう」

 

 ステラはミアの小さな手を取った。触れてみると、案外冷たい。ミアの治癒魔法を受けている時は、湯に浸かっているような心地の良い温かさなのだが、術者本人の体温は結構低いみたいだ。

 

 「ステラ様、手汗が。すごい湿ってます。なんか嫌です」

 

 暗さに対する不安から吹き出る手汗を嫌がるミア。これだから潔癖症は困る。

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