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「殺してください、ステラ様。どうか私の首をはねるなり、腹を切るなりしてください」

 

 呪いが解け、正気に戻ったリュカが介錯を頼んできた。騎士団にいた頃から愛用している剣をステラに渡して、斬り落としやすいように首を差し出す。


 「待て待て、落ち着け。そう気に病むこともないさ。結果的に呪いは解けたんだし、甚大な被害が出たわけでもない。強いて言うなら、ミアが一番の被害者かな」

 

 呪いのせいで積極的になったリュカに甘い言葉を耳元で囁かれ、気絶したままミアは起きてこない。倒れる際に頭を打っていたが、眠っているミアの顔はどこか幸せそうだった。きっといい夢を見ているのだろう。 


 「あまりハッキリと覚えていないのですが、私はミア様になにをしたんでしょうか」

 

 「思い出さないほうが君のためだよ。しかしまあ…すごかったな。色々と」

 

 騎士道精神に満ちており、かつては主君と神のために命をささげて戦ったリュカ。今はミアを守るナイトとして旅をする彼女は、日頃から清廉潔白な人間だった。不正や悪事を許さず、自分自身にも厳しい性格だ。不純な行為も快く思わず、一緒にキャバレーに行った時も、肌を露出して舞う踊り子たちに最初は不快感を示していた。公衆の面前で肌を出して踊るなど、卑猥だと。確かにリュカはそう言っていた。

  

 だが、呪いによって女豹と化したリュカはどうだっただろうか。大勢の前で男に自分の体を舐めさせ、悦に浸っていたではないか。舐めさせたのは毛皮とはいえ、あんなおぞましい光景、ステラでさえ初めて見た。本当にミアが気絶していてくれたのが、唯一の救いだ。

 

 リュカ本人はその時の記憶がないらしいが、何かよくない事をやらかした感覚だけは残っているようだ。ステラがいくら宥めても、リュカは頭を抱えて呻くのをやめない。

 

 「すごかったってなんですか、私なにをしたんですか!」

 

 「だからその、かなりサディスティックな感じだったよ。男を支配して喜んでるような、なんというか、すごく妖艶な感じで…」

 

 語尾もやたらと甘ったるかった。自分がにゃんにゃん言っていたことを知れば、リュカは迷いなく切腹してしまいそうなので、黙っておく。元はといえば、ステラが適当にそそのかしたのが悪かったのだが。

 

 「やはり殺してください。死んで一から騎士道を学び直します」

  

 唇を噛み、赤面して震えるリュカの頭を撫でてやると、少しは落ち着いたのか、彼女の呼吸がゆっくりになった。

  

 「ステラ様にはご迷惑をおかけしました。それにお店の方たちにも。なんとお詫びをすればよろしいのか」

 

 「君の暴走を止めてくれた男にも礼を言っておきな」

 

 ロメオが呪いを解除してくれたこと。そして彼が呪いのアイテム専門の収集家であることを、リュカに話した。リュカはロメオの前に膝をつき、深々と頭を下げた。

  

 「ありがとうございます、ロメオ様。呪いから私を救って下さったこと、心から感謝いたします」

 

 「あー、全然いいっすよ。しょぼい呪いだったんで、解くのめちゃくちゃ簡単でしたから」

 

 しょぼい、という言葉でさり気なくリュカの自尊心を傷つけるロメオ。専門家からすれば大したものではないのかもしれないが、奔放な女豹と化したリュカの暴走は、素人からすれば厄介極まりなかったのだが。

 

 「ところでロメオ。あれは結局なんの呪いだったんだ?」

 

 リュカが身に着けていた付け耳としっぽ。そして薄茶色の毛皮。獣人に扮するために店から借りた三点セットには、ロメオ曰く呪いがかけられていたという。

 

 「10年くらい前ですかねえ。物好きの人間からすごい人気を集めた獣人の女の子がいたんですよ。それこそめちゃくちゃセクシーで、人間の男を手玉に取るような子でした。ある時、客の一人が大枚叩いてその子を買ったんですよ。それも奴隷としてじゃなくて、妻として迎え入れたんです。人間と獣人のカップルなんて、今よりも獣人差別が酷かった当時ですから、そりゃあもう顰蹙買ったそうですけどね。まあ、残念なことに2人の結婚生活は長続きしませんでした。男が別の獣人に浮気したとかで、その子とすごい喧嘩になっちゃったんですよね。獣人のほうが何倍も力強いですから、サシじゃ勝てない。ってことで、その男は奥さんを集団リンチ。皮も耳も全部剝いじゃったんです。殺されたほうからしたら、堪ったもんじゃないですよねえ。死んでも死に切れませんよ。そんで、その子の恨みがこもったのが、リュカさんが身に着けた獣人セットってわけです」

 

 痴話げんかの末に殺された獣人の呪い。そんな恐ろしいものが込められているとは知らず、リュカは獣人に扮するという目的のためだけに、店のオーナーからそれを借りていた。獣人の恰好をしたほうが、客に絡まれているミアを助けるのにスムーズだという考えだったが、結果的に呪いを受ける羽目になってしまった。

 

 「なかなかひどい話だな。しかしなぜ、呪いのアイテムがこの店に?」

 

 「話に出てきた獣人の子が、もともとここの店で働いてたんすよ。僕も知ったのは最近なんですけどね。オーナーさんが当時のまま毛皮とか保管してるっていうんで、これは収集家として黙っていられない。ってわけですっ飛んできたんです!」

 

 いつの間にか買い付けを終えたらしく、ロメオは呪いのアイテム一式を鞄に詰め込んでいた。

 

 「オーナーさんにはお世話になってるんですよ。こういう変態が集まる店って、何かといわくつきのアイテムが集まりやすいみたいでね。こうして何度か買い付けに来させてもらってますよ。呪いのかかったものは一部の呪術マニアに高く売れるんで、これいい商売なんすわ」

 

 高く売れる、という言葉にステラの耳は動いた。旅の資金を稼ぐためにミアを働きに出したのに、結局お金は増えるどころか、リュカが壊した店の修繕費でマイナスになりそうだ。

 

 「なあロメオ。私たちにも呪いのアイテム集めを手伝わせてくれないか。君1人じゃ入手困難なものだってあるだろう?幸いこちらのパーティーには、腕が立つ勇者と戦士、そして高度な治癒魔法が使える僧侶もいる。強力な魔物の巣窟から、お目当てのアイテムを奪い取る、なんて仕事でも請け負うよ」

 

 「マジっすか?それは悪い話じゃないですね」

 

 話が早くて助かる。ロメオは顎を撫でで一瞬考える素振りをしたが、すぐに合意の握手を求めてきた。

 

 「分け前は半々でどうっすか?」

  

 「いいだろう。よろしく頼むよ」

 

 これで資金のほうは工面できそうだ。ステラはほっと胸を撫でおろした。

 

 「リュカ、君には今回しっかり働いてもらうぞ。ちょっとでもサボってみろ。君の恥ずかしい行為の数々を、ミアにばらしてやる」

 

 「だ、だから私は一体なにをしたんですか…?」

 

 リュカの弱みを握れたことは、思わぬ収穫だった。

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