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 獣人という種族は、大きく分けて二種類だ。獣としての側面が強く、ごわごわの毛皮に鋭い爪。獲物を求めて、相手が人間だろうが魔物だろうが関係なく襲い掛かるような獰猛なのが一つ。

 

 もう一種類の獣人は、人間としての側面のほうが強い。ベースとなっている獣も、猫やウサギなどの可愛らしいものが多い。ふわふわの毛皮に柔らかそうな耳としっぽ。前者は見世物小屋のフリークとして扱われ、散々痛めつけられたあと、最後はゴミのように捨てられる運命だ。獣人は人間よりも下という考えが蔓延っており、奴隷かそれ以下の扱いを受けている獣人を、ステラもこれまで何度も見たことがある。しかし後者の、ふわふわした可愛いほうの獣人となれば、また話が違ってくる。見た目は猫耳や犬耳の生えた女の子なので、彼女らを愛玩動物のように愛でるマニアたちが国中にいるという。


 ステラがギャンブルで大敗したせいで、すっかり底を尽きた旅の資金。それを補うために、酒場の男から紹介されたのは、まさに獣人に接待をさせている風俗店だった。店に入る前から、獣特有の臭いが漂ってくる。いくら見た目が可愛くても、彼女たちには獣の血が半分混ざっている。だが夜も遅い時間だというのに、店は大盛況だ。

 

 男は言っていた。この店に集まる客は、変態、もとい少し変わった趣向を持っている男たちだと。つまり、獣人を性的対象として見ている物好きということか。

 

 店を紹介されたのは、客として楽しむためではない。稼ぐためだ。そしてどのようにして稼ぐかといえば…。

 

 「最悪…最悪、最悪です。ステラ様には失望しました。もう私、このパーティー抜けます」

 

 付け耳としっぽ、薄茶色の毛皮をまとったミアが、泣きそうな声で言った。

 

 「今晩だけだから、なんとか我慢してくれよ。耳もしっぽもとっても似合ってるって。うん、世界一かわいい獣人だ。間違いない」

 

 「私の尊厳が…。僧侶としての、人間としての尊厳が…」

 

 男の提案は、ミアに獣人の恰好をさせて、店で働かせようというものだった。話によると、客の人気を集めることができれば、一晩で相当な金額が稼ぎだせるという。当面の資金には困らない。ミアを売るようで心が痛んだが、いざというときはステラが守ればいい。後ろにはリュカも控えているし、安心だ。

 

 「似合ってるのっては本当だよ。なあリュカ?」

 

 「はい。最高に愛らしいです、ミア様。この店にいるどの獣人の方よりも!」

 

 「ほ、ほんとですか…?」

  

 リュカに褒められると、ミアの表情は少しだけ明るくなった。ミアの変装は猫をベースにしており、野良猫というよりは、貴族に飼われている高級猫っぽい雰囲気がある。彼女が持つ本来の可憐さは、獣の変装では隠しきることは出来ていないが、それもまたマニアには刺さるはずだ。

 

 「いっそのこと、語尾ににゃんとか付けてみるのはどうだ?やるなら思い切ったほうがいいだろう」

 

 ステラは冗談で提案しただけだったのに、ミアが本物の獣のような形相で睨んできた。

 

 「がるるるるる…」

 

 「分かったから唸らないでくれ」

 

 「こうなったのはステラ様のせいなんですからね。本来はステラ様が耳をつけて接客すべきなんですよ!」

 

 付け耳と神経は繋がっていないはずなのに、ミアの感情の昂ぶりに合わせて耳がぴょこぴょこ動いている。無意識のうちに魔法が漏れているのかもしれない。

 

 「私には需要が無いんだよ。一応リュカにやらせてみるのも考えたが、あまりに凛々しすぎる。こういう店の獣人に求められるのは可愛さだ。ミアが適任だったから任せたってだけさ」

 

 リュカの獣人姿もちょっと見てみたい気がしたが、ここは確実に稼げるほうを優先する。不名誉な白羽の矢が立ったミアは、ぶつくさと文句を垂れながら店の裏側へ入っていった。

 

 その後を姿を見送るリュカは、ふりふりと揺れるしっぽの可愛さに、唇を噛んで耐えていた。

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