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「リュカ様!皆さんリュカ様から離れてください!」

 

 紳士的にミアをリードしていたオスの魔物や、舞踏会に華を添えるように華麗な踊りを披露していたメスの魔物が、塊になってリュカに襲い掛かる。獣の臭いや、爬虫類のような生臭さが混ざりあい、瀟洒な舞踏室は騒然となった。ミアが必死に魔物を引き剥がそうとしても、非力な僧侶ではまったく歯が立たない。すぐに弾き飛ばされ、ミアは壁に叩き付けられた。もう魔物たちはダンスのパートナーではない。人間の貴族の真似事で覚えた慇懃な所作はどこかへ消え、魔物本来のどう猛さが現れていた。

 

 「どいていろ、ミア。これ以上ドレスを汚したくないだろう」

 

 ステラは塊となった魔物の一匹の頭を掴み、放り投げた。だがリュカの姿はまだ見えない。よほど奥のほうに閉じ込められてるらしい。

 

 「ちょっと失礼するよ」

 

 ミアとリュカの口づけらしきシーンで、視界を遮った魔物ペアの首を一刀で斬り落とす。すると、群青色のドレスの端がちらりと見えた。もがくリュカの手が、うごめく魔物の中から助けを求めるように伸びている。ステラはそれを掴み、力いっぱい引き上げた。

 

 「うわ…ドロドロじゃないか。せっかくのドレスが台無しだなぁ。あとでマダムに洗濯代を請求しておこうか」

 

 ステラによって救出されたリュカは、魔物の粘液やら涎やら、あとステラが首を斬った時に出た鮮血やらで、もとの群青色はすっかり失われていた。何色とも言い難い汚い色のドレスを纏ったリュカは、激しく咳き込んでいる。

 

 「すみません、私の軽率な行動のせいでお二人に迷惑を」

 

 「ミアを守るためにやったことだろう。私だってそうするさ。だが、今回は謝って済むレベルの話じゃないみたいだ。見ろあれ。マダムの顔。真っ赤っか」

 

 ゆでだこを通り越して、血まみれみたいな色になっているマダム・シスル。こんなにも怒りのボルテージが上がっているのが分かりやすい魔物も珍しい。

 

 「よくも私の舞踏会を滅茶苦茶にしてくれたわね!全員処刑よ。この3人の首を斬れ!」

 

 マダムの命令で、魔物の塊がステラたちめがけて突進してきた。踊りの最中、邪魔にならないようにと預かっておいたリュカの剣を返し、ステラ自身も剣を構えた。

 

 「リュカ、もう動けそうかい?」

 

 「ええ、問題ありません」


 「ではミアを守ってやってくれ。こいつらは私が引き受ける」

 

 「50匹はいますよ。ステラ様おひとりで大丈夫ですか?」

 

 「こちとら良い感じに酔ってるんだ。しかも高いシャンパンだから、悪い酔い方じゃない。これは酔った時の私の悪い癖なんだが、つい魔物をバサバサ斬りたくなるんだよ。最高の状態でお膳立てされてるし、ちょいとやってくるよ」

 

 酔っ払い対魔物集団の戦いは、一瞬で決着した。

 

 色彩にこだわった調度品や壁紙など、マダム・シスルご自慢のセンスとやらをふんだんに発揮して作った舞踏室は、魔物の血で赤一色に染まった。こうなってしまっては、センスも何もあったものじゃない。ステラに給仕をしてくれていたウエイター係の魔物が、命乞いをするように「お、お助けを…」と手を伸ばした。

 

 「お前、注ぎ方下手くそなんだよ。一気に注ぐな。泡だらけになるだろうが!」

 

 ステラはヒールの踵でその頭を踏みつぶした。最期に聞く言葉が、シャンパンの注ぎ方へのクレームとは、哀れな魔物である。

 

 多勢に無勢など、ステラの辞書には存在しない言葉だ。魔物を一掃したステラが、マダム・シスルを振り返る。

 

 「舞踏会を台無しにしたことは謝る。なかなか楽しかったよ、マダム。だが、ここからは戦争だ」

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