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 曲が終わり、リュカとミアは互いにお辞儀をして離れていく。その隙を見計らって、新たな魔物がミアに踊りを申し込んだ。

 

 「僕と踊ってくださいませんか、お嬢様!こう見えても踊りは得意なんです。ぜひエスコートさせて頂きたい!」

 

 「あ…えっと…」

 

 「さあさあ、お手を!」


 ミアはその手を握るのを躊躇した。相手が魔物だからではない。すでに何匹もの魔物たちと踊ったし、彼らはみな舞踏の心得があったので、パートナーとして申し分無かった。しかし問題は、目の前の魔物の手が粘液まみれだったことだ。カエルのような顔に、ぎょろぎょろと動く真っ赤な目。水かきのついた手からは、ひっきりなしにねばねばしたものが垂れている。汚いものではないと心に言い聞かせても、生理的に受け付けない。

 

 「あの、私やっぱり別の方と踊ります」

 

 「ええっ、そんな!」

 

 「リュカ様、もう一度お願いできますか?」 

 

 「はい、私でよければ」

 

 安堵の表情でリュカに駆け寄るミア。2人が手を取り合い、微笑みあったのを見て、魔物は粘液をまき散らしながら激怒した。

 

 「おい、そこの男みたいな女!僕が先に申し込んでたんだぞ。舞踏会のルールを知らないのか?同じ相手とばかり踊るのはマナー違反!これだから平民はダメだなんだ」


 事態を静観していたステラの方まで、その怒鳴り声は聞こえてきた。舞踏会で喧嘩など、はしたない。シャンパンで気持ちよくなった頭でぼーっと考えながら、ステラはうとうとと舟をこぎ始めた。

  

 「やめてください。ミア様が怖がられてるじゃありませんか」

 

 リュカが魔物の前に立ちふさがると、魔物も負けじと応戦する。耳の後ろに隠れていたトサカを逆立ててリュカを威嚇し、「いいから躍らせろ!」とミアに手を伸ばした。

 

 「ひっ…」

 

 ミアは両手で頭を抱え、目を閉じた。顔に生ぬるい液体がかかった。しかしそれは魔物の粘液では無かった。

 

 「ぎゃっ!俺の腕、腕が!」


 ペチコートとドレスの間に器用に忍ばせていた短剣で、リュカは魔物の腕を切り落とした。吹き出た血が、ミアの顔と若草色のドレスに飛び散った。

 

「せっかくのお召し物を汚してしまい、申し訳ございません。お怪我はありませんか」

 

 「はい、平気です。でもあれ見てください。マダム・シスルの様子がなんだか変ですよ」

 

 腕を切られてのたうち回る魔物を一瞥したマダム・シスルは、みるみるうちに体全体が赤くなっていった。ピンク色のドレスと同色になったと思ったのも束の間。今やすっかりゆでだこのような色になっている。

 

 「無礼者!」

 

 マダムの一喝は衝撃波となり、舞踏室のガラスをすべて割りつくした。

 

 「えっ、なに。なにが起きた?」

 

 半分夢の世界に入っていたステラが、その声で現実に引き戻された。


 「舞踏会で殺生など言語道断!皆の者、その女を殺せ!」

 

 音楽が止み、それまで和やかに踊っていた魔物たちが、一斉にダンスを止めて戦闘態勢に入った。口々に何かを喚きながら、リュカへと飛びかかっていく。いくらリュカといえど、短剣一本であの数を相手にするのは不可能だ。あっという間に魔物の波に飲まれてしまい、群青色のドレスは見えなくなった。

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