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和やかな雰囲気の中で舞踏会は続けられた。ミアとリュカも慣れてきたようで、曲が終わるとまた別の相手と組み、踊り始める。相手が魔物であっても、この場に限り、討伐対象ではなくダンスのパートナーだ。魔物の性別を見分けるのに多少苦労しているようだが、2人とも短時間でかなり上達している。
ぺこりとお辞儀をして、次の相手へ。ミアは魔物から人気を集めており、彼女と踊ろうとするオスの魔物たちが、次は自分と踊りませんかと、申し込みの順番を争っていた。この数を全部相手するのは、さぞかし骨が折れるだろう。ミアの愛らしさは、人間だけでなく魔物受けもいいらしい。若草色のドレスがミアの魅力を一層際立たせているのだから、魔物たちの本能が刺激されるのも納得だ。
一方で壁の花を決め込んでいるのが、リュカだった。誰もリュカとは踊ろうとしない。戦士である彼女が放つ攻撃的なオーラは、群青色のドレスでは抑えきれておらず、魔物の警戒心を煽っているのだろう。舞踏室の壁にもたれかかり、つまらなそうな顔で、魔物と踊るミアを見つめている。
ステラは4杯目のシャンパンをちびちびやりながら、拗ねているリュカのもとへ。
「どうしたリュカ。またミアと踊らないのかい?さっきのダンス、とても素晴らしかったよ」
「ミア様は人気ですから。私と踊るよりも、魔物と踊ったほうが楽しいですよ。みんな上手ですし」
「まあまあ、そういじけるなって。なんなら私が相手をしてやろうか」
「ちょっと、ステラ様⁉」
ステラはシャンパングラスを放り、リュカの両手を握って指を絡ませた。落ちたグラスが割れ、残っていた中身が舞踏室の床を濡らした。
「もう、酔ってるじゃありませんか。そんなフラフラで踊ったら危ないですよ」
「平気平気。君たちのダンスを見てやり方はなんとなく…おわっ!」
床にこぼれたシャンパンで足を滑らし、ステラはリュカを押し倒すようにして倒れこんだ。
顔が近い。口づけをした疑惑のある、先ほどの2人と同じくらいの距離感だ。リュカとここまで至近距離に迫るのは、これで二度目。一度目の時はリュカのほうから寄せてきたわけだし、お互いまんざらでも無かったのだが、今回はリュカが酔っ払いに襲われるという構図だ。こんなところをミアに見られでもしたらまずい。せっかくドレスの着こなしで株を上げたのに、またネチネチと文句を言われてしまう。
「すまない、つい勢いで。すぐにどくから」
しかし一歩遅かった。
「なにを…しているんですか。ステラ様」
ミアの目から光が失われている時は、怒りとステラに対する失望の表れを意味する。唇をぎゅっと噛み、スカートの生地を握る手はぶるぶる震えている。
「離れてくださいよ。リュカ様は私と踊るんですから!ほら、行きましょう。あっ、そうだ。今度は私からお誘いしますね。こほん…」
この数十分の舞踏で磨かれた貴族的な所作で、ミアは小さくお辞儀をした。
「私と一曲踊ってくれますか?リュカ様」
「は、はい。喜んで!」
「なんだよ。また私だけのけ者かよ」
甘い雰囲気を醸し出す2人にぶつくさ言いながら、ステラはテーブルに戻って追加の酒を注文した。
舞踏会はこのまま平和に終わると思われた。どこかの地方では、人と魔物が共生する集落もあると聞く。マダム・シスルも最初こそ好戦的だったし、目の前で幼い魔女を殺した時はなんて残忍なやつだと思ったが、舞踏会を主催するくらいに貴族文化への理解が深い。話の通じない荒くれの魔物とは違い、平和的解決も十分に望めそうだ。
「ほらマダム、飲め飲め。ああいい、私が注いでやる。おっとっと、ちょっとこぼれちゃった」
「ほんとあなた、マナーがなってないわ。下品よ下品」
こうして酒を飲みかわすことで、友好関係も築き始めている。やはり酒は異種族間の橋渡しにぴったりだ。案外魔王とも、酒場で出会えば仲良くなれるかもしれない。
そう事態を楽観視していたのだが、甘かった。
平和な舞踏会は、突如として終わりを告げた。




