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 ミアの前に跪くリュカの姿は、まるで愛しの姫に愛を誓う王子様そのもの。なんてものを見せてくれるんだ。完全に2人だけの世界が展開されている。周囲で踊っていた魔物たちも、動きを止めてリュカとミアに視線を奪われていた。


 「…はい、喜んで!」

 

 ミアは差し出された手に自分の手を重ねて、はにかみながらお辞儀を返した。


 2人は手を取り合い、舞踏室の中心へと向かっていく。魔物たちがそれとなく道を開けたおかげで、ミアとリュカの周りには、踊るには十分すぎる広いスペースが生まれた。

 

 「あーあ、若いっていいねえ。やっぱあの2人、お似合いだよ」

 

 舞踏会に集められた人間と魔物の数は、マダム・シスルを合わせて54。他の魔物たちは全員パートナーを見つけているため、必然的にステラの相手はマダムしかいないわけだが、まさか踊りに誘うわけにもいくまい。1人取り残されたステラは、マダムの座っている側にあるテーブルに腰かけた。


 「テーブルから降りなさいよ、お行儀の悪い」

 

 「それより酒ないの?酒。ウェルカムドリンクの一杯も出されてないぞ。せっかく来てやったというのに、あまりにサービスが悪いじゃないか」

 

 踊る相手もいないなら飲むしかない。数時間前に腹部を突き刺した相手に歓待を求めるステラ。その横柄さにマダムは呆れた様子で、目をぐるりと回した。

 

 今のところ、マダムから明確な敵意は感じない。そもそも問答無用で殺すつもりなら、舞踏会に招待などしないだろうし、この場をうまくやり過ごせば、平和的解決も見込めるかもしれない。ステラとて好きで魔物を殺して回っているのではないのだ。いや、酔った勢いで魔物狩りをした夜は数知れないが、少なくとも今はシラフ。血生臭い事はやりたくない。

 

 テーブルの上に、氷入りのバケツに入ったシャンパンが現れた。踊っていた魔物の一匹が、マダムの指示で給仕へやってくる。足の細いグラスに注がれたシャンパンを通して、踊るミアとリュカを見る。


 薄い黄金色の世界に閉じ込められた2人。どちらもダンスの経験なんてないと言っていたが、果たしてうまく踊れているのだろうか?

 

 「ミア様、お手を」

 

 「は、はい」

 

 「周りの魔物たちに倣って、動きを真似てみましょう。まずは足を出して…」

 

 「右ですか、左ですか」

 

 「右足を出してください」

 

 「こうですか…わっ!」

  

 ミアがバランスを崩して躓いた。

 

 「す、すいません。ミア様から見て右足という意味でした」

 

 「はは…、なんか難しいですね」

 

 ステラはシャンパンを呷った。

 

 「なんだよそれ、いちゃついてるだけじゃダンスとは言わないぞ!」

 

 舞踏会史上、外野からヤジが飛ぶなんて事が今までにあっただろうか。

 

 「お下品よ。黙って見てなさい」

 

 マダム・シスルに窘められてもなお、ステラはぶーぶーと文句を垂れた。

 

 「ゆっくり、ゆっくり…。そうです、お上手ですよミア様」

 

 「リュカ様こそ、初めてとは思えません。さすが吸収が早いですね。魔物たちの動きをちょっと見ただけで、もう踊り方をマスターされたのですか?」

 

 「いえ、見よう見まねですよ」

 

 リュカが握った手を高く上げ、ミアがくるりとターンをした。若草色のドレスが、春の風に吹かれたように舞う。リュカが腰に手を回して、ミアの体を引き寄せた。

 

 「ひえっ⁉」

 

 リュカにリードされて、そこそこ形になる程度には踊れていたミアが、動揺のあまり手足をばたつかせて暴れはじめた。

 

 ステラは2杯目のシャンパンを給仕担当の魔物に注がせて、中身を一気に飲み下した。

 

 「おい、マダム。あんなに顔を近づけるものなのか?他の魔物を見てると、もう少し適切な距離感を保っている気がするんだが」

 

 「あの子たちは下手くそだから、しょうがないじゃない。まあ確かに、唇が触れるくらいの距離ね。あんな下品なダンスは見たことがないわ」

 

 実際に唇が触れたかどうかは分からない。ちょうどそのタイミングで、別の魔物ペアがステラの前を踊りながら通ったからだ。

 

 ただ、再び視界に2人を捉えた時、お互いが目線をわずかに逸らしていたのが気になった。ステラは3杯目を飲み下した。


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