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 「遅れてすみませんでした!」

 

 「私がもたついてたせいです。申し訳ございません!」

 

 約束の時間を過ぎての到着に怒り心頭のマダム・シスルを前に、ミアとリュカは平謝りするしか無かった。

 

 「まあまあ、いいじゃないか、10分くらい。魔物は人間と違って長命なんだし、私たちからすれば10分でも、マダムに取っちゃ10秒みたいなもんさ」

 

 パーティーの長として、ここは2人を庇ってやらないといけない。同意を求めるようにマダムを見たが、彼女の目はまったく笑っていなかった。


 ふうぅ、とマダムは大きなため息をついた。それはため息というより突風だ。舞踏室に灯っていたろうそくの明かりが、マダムの息で半分ほどかき消えてしまった。窓はガタガタと揺れ、天井から吊り下げられたシャンデリアが落ちてこないか心配になる。

 

 「1秒だろうが1時間だろうが、遅刻は遅刻よ。最近の勇者って常識がないのね」

 

 「あぁ、せっかくセットした髪が…」

 

 ドレスの着付けの際に、リュカが丁寧にセットしてあげたミアの髪が、マダムのため息でぼさぼさになった。後ろで髪を束ねているステラと、ショートカットのリュカには何の被害もない。

 

 「ここは私に免じて許してくれないか。ほら、マダム。私の着こなしが気に入っているんだろう?」

 

 ステラはこれ見よがしにその場でターンをして、スカートをふわりと膨らませた。馬子にも衣裳というが、やはり高級なドレスを着ると自己肯定感も上がる。ミアたちにも褒められたし、今の自分は夜会の華にもなれる。そんな気がしていた。

 

 「私のオリジナルブランドは、服が着る人を選ぶのよ。その深紅のドレスが似合うってことは、相当血生臭いことをやってきたのね。私が気に入ってるのはあなたのそういうところよ。顔やスタイルは平均以下」

 

 「なんだぁ?この豚…」

 

 「ステラ様、剣を収めてください。私たちは舞踏会に招かれたんですよ。戦いに来たんじゃないんですから」

 

 今にも斬りかからんとするステラをミアが抑えた。歯をむき出しにして唸るステラの隣で、リュカが手を挙げた。

 

 「マダム・シスル。一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

 「なにかしら?」

 

 「私たちはこの舞踏会で何をすればよろしいのですか。お恥ずかしながら、こういうものに参加するのは初めてでして、作法も何も分からないのです」

 

 ヒールすら履いた事のないリュカのことだ。舞踏会がなんたるものかすら理解していない可能性もある。とは言っても、ステラにも舞踏会の経験はない。単なる娯楽目的だけでなく、政略結婚の相手を探したり、貴族どうしがビジネスの商談をする場だったりと、様々な開催の意図があるらしいが、ステラには無縁の話だった。

 

 「何も難しいことは考えなくていいわ。踊りなさい」

 

 「踊ると言われましても…」

 

 「ミュージック、スタート!」

 

 マダム・シスルが指を鳴らすと、ステラ達しかいなかった空虚な舞踏室に、50を超える魔物が現れた。魔物たちはみんな、マダム・シスルのオリジナルブランドで着飾っている。誰がどこで演奏しているのか、バロック音楽が流れ出した。

 

 「ほらほら、何をしているの。ダンスは一人では出来ないのよ。踊る相手を見つけなさい」

 

 ろくな説明もないまま始まった舞踏会。確かにマダムの言う通り、踊る相手を探さなければならない。

 

 舞踏会でのダンスは男女それぞれの役割が分かれている。男性がリードする形で進めていくのが基本で、魔物たちもそのルールに則って踊っている。見た目だけではどちらがオスでどちらがメスか分からないタイプの魔物でも、リードしている方がオスなんだと判別できた。

 

 「ど、どうしましょう、ステラ様。いきなりダンスなんて言われても困ります。せめて基本だけでも教えてもらわないと」

 

 心細くなったミアは、ステラの腕に縋りついた。


 「こういうのはノリだよ。周りの魔物たちの真似をしていれば乗り切れる。さあ、行っておいで。君を待ってる人がいる」

 

 「待ってる人?」

 

 慣れない足取りでミアに近づくリュカ。しかし、ひざを折って跪く所作だけは滑らかだ。さすが元騎士団の副団長。


 「一曲お願いできますか?ミア様」

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