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宿のベッドでは、相変わらずリュカがうなされていた。だが心配するほどでもない。見ているのでは悪夢ではなく幸せな夢のはずで、苦し気に聞こえる吐息はよく聞くと甘い響きを孕んでいるからだ。
まるで隣で寝ている誰かを抱き寄せるような仕草をして、自らの腕を抱くリュカ。
「ん…ぅ…クローディア…ぁ…」
ミアが舌打ちしたのがハッキリ聞こえた。
「とっとと呪いの特効薬を作りましょう。このふざけた夢から起こさないと」
「もう少しこのまま寝かせてやってもいいんじゃないか。幸せそうだしさ」
「冗談はやめてもらえますか。ずっと知らない女の名前を囁かれるこっちの身にもなってくださいよ」
「まあそりゃ確かに嫌か」
「チロル、薬のレシピを教えて下さい」
師匠の受け売りで呪いに関する知識が豊富なチロルが、ミアの特効薬作りを手伝った。時間のかかる作業かと思ったのだが、案外すぐに完成したようで、湯気を立てる粥のようなものをミアが運んできた。
「リュカ様、お口を開けて下さい」
「ん…」
「ちょっと、なんで閉じるんですか。開けてくれないと薬を飲ませられません」
「んぅ…」
「もー!」
夢の中にいるリュカにミアの声は届いていないはずだが、なぜか口を開けろという指示に逆らっているように見える。
「リュカお姉さま、なんだか夢から覚めたくないみたいですね」
「私もそう思った。無意識で薬を拒否するほど幸せな夢の中にいるんだろ」
「クローディアさんとは一体どんなお方なのでしょう。きっとリュカ様のお相手ですから、素敵なレディなんでしょうねえ」
リュカは寝返りを打ち、ミアがスプーンに載せて差し出した薬から顔を背ける。
「なにしてるんですか、リュカ様!ほらこっち向いて」
「…ここなら…だれにも見つかりませんよ…」
「どういうシチュエーションなんですか、その寝言!」
リュカが寝言を漏らせば漏らすほどミアの機嫌が悪くなってくる。ステラとチロルは、事の成り行きをただ見守るしかなかった。
「ここにいたら八つ当たりされそうだな」
「撤退しましょうか。あとは若いお二人でご自由に…」
「二人とも」
逃げようとした瞬間にミアに呼び止められた。
「リュカ様を押さえててください。チロルは体。ステラ様は口を無理やりこじ開けてもらえますか」
「そこまでする…?」
「早く。薬が冷めてしまいます」
ここで逆らえば八つ当たり程度では済まなくなる。言われた通りにリュカの口に指を突っ込み、力ずくで開いた。
「悪く思うなよ。これは君の恋人の命令だ」
「そうですよリュカお姉さま。恨むならミアちゃんを恨んでください」
「ごふっ…!」
喉に薬を流し込まれたリュカ。彼女の鼻をミアがつまんで、強制的に薬を飲み下させた。




