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「道を間違えたんじゃないか?こんな朽ちかけたような村に目的のブツがあるわけない」
吹けば飛ぶようなぼろ家が立ち並ぶだけの通りが、一応は村のメインストリートのようだ。住民の姿はなく、畑もすっかり荒れ果てている。しばらく使われた形跡のない井戸や、枯れ葉の積もった道。人が暮らしていれば、もう少し手入れがされるはずだ。
「けど教えてもらった方向に歩いてきましたし、間違いないと思います。ステラ様じゃないんですから、こんな簡単なルートで迷うはずもありません」
方向音痴なのは事実なので、なにも反論できない。
「しかしですよ、目的の植物はおろか、雑草の一本すら生えていないじゃありませんか。これじゃ到底期待できませんね」
「そんな!リュカ様を早く目覚めさせてあげないといけないのに」
「まあまあ、そんな焦らなくても大丈夫ですよ。例の植物はそう珍しいものでもないので、ここに無くてもほかを探せばいいんです。それにしても人っ子一人いやしないなんて、もしや魔族に滅ぼされた村なんですかね」
人間がいない代わりに、蛇やイタチなどの野生動物が我が物顔でうろうろしていた。だが人がいなければ敵の気配もしないので、そう身構えることもないだろう。
「せっかく来たんだし、一応探すだけ探してみるか」
「蛇が。蛇がこっち見てます。ステラ様、やっつけてください!」
ミアが飛び上がり、ステラの後ろへ回り込んできた。
「なんだ、こんな小さい蛇くらいでビビるとは情けない」
武器を使うまでもなく、ステラは蛇を蹴り飛ばして絶命させた。蛇が潰れる瞬間、ぷぎゅっという湿った音が静かな村に響いた。
それからしばらくして、ステラの行く手を阻むようにして二匹目の蛇が現れた。心なしか、さっきの蛇よりも敵意むき出しに見える。
「私がなにしたっていうんだよ。おらっ!」
牙を突き立てようとしてくる蛇を、枯れ葉の積もった溝へと蹴り落とす。
おかしいと感じたのは間もなくのことだった。
「こ、これで十匹目ですよ。ステラ様、どこかで蛇の恨みでも買ったんですか⁉」
少し歩くたびに蛇が現れ、しかもちょっとずつ大きくなっている。違和感を感じ始めたのは六匹目あたりからで、十匹目となると小さめの大蛇サイズだ。
「悪いが心当たりはない。しかし本当にどうなってるんだ。こいつら明確な殺意をもって私を襲ってきてるし、倒すたびにサイズも大きくなってるぞ」
「チロルとミアちゃんには見向きもしませんので、ステラお姉さまだけがターゲットって感じですね。となると、ステラお姉さまに恨みを持つ人物が操っているとか、そっちの線が考えられるんじゃないでしょうか」
「思い出してください、ステラ様。誰に恨まれてそうか!」
「ごめん、多すぎて分かんない」
料金を踏み倒した酒場の店主、二日酔いのゲロでベッドを汚した宿屋の女主人、接触禁止のキャバレーで、酔った勢いで襲いかけた踊り子。人間だけでも思い当たる節が多すぎる。それに魔族や獣などを加えると、指を十本折っただけでは数えきれない。リュカと出会うきかっけになった狼男への理不尽な殺害。一人旅をしていた時には、悪党と間違えて善良な騎士団を壊滅させたこともある。
「どんだけひどい人生送ってきたんですか!」
「だってぇ…」
「ステラ様、よく今まで闇討ちとかにあいませんでしたね。私が被害者なら、絶対復讐しようと思いますけど」
「危険人物と旅をしてる自覚が持ててよかったじゃないか。今後はもっと気を引き締めていけよ」
過去は消えないので開き直るしかあるまい。
小さめの大蛇サイズの蛇が、ステラに噛みつこうと向かってきた。さすがに足技だけで対処できるレベルは超えていたので、村に来て初めて剣を抜き、蛇の体を真っ二つにした。
「どうせまた次のが来るんだろ」
「いったんどこかに避難しましょう。ほら、奥のほうに教会らしき建物がありますよ!さすがに教会の中にまで入ってきませんよ。チロルが保証します」
おんぼろの教会に駆け込み、建付けの悪い扉を閉めて一息つく。チロルの言う通り、十一匹目の蛇が襲ってくる気配はなさそうだ。
「しばらくここで休ませてもらおうか」
ステラが椅子に腰を下ろしかけたとき、調律の狂ったオルガンの音がひとりでに鳴り響いた。




