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下界へ向かって下りていくステラたち一行。魔族が張った結界の影響か、道中の天候は荒れ放題だった。明け方は極寒だったと思えば、昼前には焼けつくような猛暑。そこに大雨や猛吹雪が襲ってくるものだからたまらない。おかげでミアの機嫌がどんどん悪くなってきた。
「なんなんですか、さっきから。暑いなら暑い。寒いなら寒いでハッキリして下さいよ。あーもう、服もぐちょぐちょ。人里に下りるまであとどれくらいかかるんですか?」
崩壊した魔王城をあとにしてからすでに三日が経っていた。岩山を滑り降りたり、枝葉で肌を傷つけながら道なき道を進むなかで、当然風呂に入ることなど叶わない。一日だけの野宿ですら文句が止まらないミアに、体が汚れたまま三日も我慢しろというのは酷だ。
「ミア様、私がおんぶしましょうか?」
普段なら飛びつくであろうリュカからの提案に、ミアは首を横に振る。
「今の私、すごい臭うからダメです」
「気にしませんよ。もう三日も体を清めてないのは私も同じですし」
その割には、リュカの髪はツヤツヤだし肌も潤っている。ステラの肌はカサカサに乾燥し、髪は泥まみれだというのに。
「ダメなものはダメなんです!私が気にするの!」
ミアからは別に不快な臭いはしてこないのだが、本人はしきりに体臭を気にしていた。腕をくんくんと嗅いだあと、リュカからさり気なく距離を取っている。
「チロルは臭くありませんよね?ステラお姉さま、ちょいと嗅いでみて下さいよ」
「うっ、腐ったバターみたいな臭いがする」
「な、なんと失礼な!え、嘘ですよね。リュカお姉さま、チロルそんな臭くないですよね?」
チロルが一歩近づくと、その分リュカが一歩遠ざかる。
「臭く…ないですよ」
「ならばどうして逃げるんです。ねえミアちゃん、チロルは変な臭いなんてしませんよね」
「くっさ」
三日間風呂に入っていないという条件はみんな同じはずなのに、臭う人と臭わない人で半々に分かれていた。ミアとリュカの無臭組と、ステラとチロルの悪臭組。特にチロルが酷く、彼女の肩にとまった小鳥が金切り声を上げて死んだ。
「魔王城を標高高いところに作りすぎなんだよ。おかげで下山するのに無駄な苦労をするんだ」
「あの人、ステラ様の妹なんでしょ?立地選びのセンスが悪いのは姉の責任じゃないんですか」
機嫌が悪い時のミアは理不尽極まりない。
「妹じゃないって。ちゃんと話しただろ?あいつの能力で無理やり、私と同じ遺伝子を持つ人間として生まれただけだと」
ネラから聞いた話は、ミアたちにもそのまま伝えてある。超自然的な現象に最も精通しているチロルは受け入れが早かったが、ミアとリュカはしばらく話を飲み込めずにいた。ミアはそのうち理解することを諦め、ネラのことをステラの妹と呼ぶようになった。
「次に魔王城を作るときは、もう少しアクセスのいい場所に作るよう言っておいて下さいよ」
「再建される前に決着をつけたいんだがな」
「妹さんたちはどこ行ったんですかね?」
「さあな。だが近いうちにまた相まみえることになるはずだ。あっちにはシャルロがいるし、最強の戦士と謳われたヘルガもいる。まあヘルガはただの操り人形だが、実力は本物だ。おそらく私とリュカが二人で戦っても勝てる相手じゃない。なにか対策を考えておかないとな」
「それより今はお風呂に…あっ!」
ぶすっとしていたミアの顔が輝いた。視界を覆っていた木々が開け、眼下に街が見えたのだ。
「や、やった。ようやく帰ってこられた…」
安堵しきったミアがへなへなと崩れ落ちる。
ミアたちにとっては三日ぶりだろうが、何度も時を戻され時間の感覚が狂ったステラにとっては、数年ぶりの景色に思えた。




