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崩壊しかけた魔王城からの脱出は、ネラとの戦いよりもある意味スリリングだった。
「走れ、崩れてきてるぞ!」
パーティーの中で最も足が速いのはリュカだが、ミアをおんぶしているせいで中々先頭のステラに追いつけない。それでも鈍足のミアを自力で走らせるよりはマシだ。一度ミアの全力疾走を見たことがあるが、重心はブレブレで腕の振り方も無茶苦茶。あれでは速く走れるはずもない。
「お、お待ちください、チロルは…チロルの足はもう限界です!」
ミアほどではないにせよ、チロルの鈍足っぷりも酷いものだった。豊満な肉付きのせいで体が重たい分、一歩一歩にかかる重力が大きい。
「魔法で足速くしたりできないのか!」
「そんな魔法知りませんよ。ステラ様、チロルをおんぶして下さいませ」
「お前をおぶったら私が潰れるだろ!いいから黙って走れよ」
ぜえぜえと息を切らすチロル。その頭上にあったシャンデリアがチロル目掛けて落下してきた。
「おわぁ⁉」
前方に飛び込んで回避したはいいが、チロルはその衝撃で足を挫いてしまったらしい。
「いったた…」
「おい大丈夫か」
「あー、ダメかもしれません。もうチロルは自力では走れませんので、やはりステラ様に運んでもらうしかないようです。おんぶがダメなら抱っこでも構いません」
ミアの治癒魔法で捻挫を治そうと考えたが、チロルが駄々をこねている間に二人とは距離が離されていた。
「残念だが置いていくしかないか」
「冗談ですよね?私とステラ様の仲ではないですか!」
本気で置いていくつもりは無かったが、思ったより鬼気迫る勢いで縋りつかれてしまった。
片手を肩に、もう片方で足を持ち上げてチロルを抱きかかえる。ステラの腕の中に収まったチロルは、さながら救出されたお姫様のようだ。
「せめて魔法で体重を軽くするとか出来ないのかよ」
「グラマラスですみませんね」
ミアという軽い荷物を抱えているリュカが急に憎たらしく思えてきた。切実に交換してほしいと願う。
魔王城の崩落は続いた。出口まであと少しというところで落ちてきた天井に進路を阻まれ、迂回ルートを探す間にも城は形を失っていく。
「そうだ、君たちはドラゴンに変身したチロルに乗ってここまで来たんだろ?だったらもう一度変身して、私たちを乗せて飛んでくれればいいじゃないか」
「残念ですが、変身魔法には多大な魔力を必要とするのです。一日一回が限界ですね」
ステラの腕の中で丸まったチロルが、すぐに提案を却下してきた。
「そこをなんとか出来ないのか?頑張って魔力を絞り出せよ」
「ステラ様の頼みとあっても、出来ないものは出来ないです」
「ミアは変身…できないよな」
「できませんし、できたとしてもドラゴンにはなりたくないです。近くで見るとちょっと気持ち悪いし。鱗とか」
「失礼な。もうミアちゃんは乗せてあげませんからね!」
お荷物の二人が言い合いをしている間に、リュカが抜け道を見つけた。
「あそこから脱出できそうですよ」
「でかしたリュカ!いざという時に頼れるのは君だけだ」
「肝心な時に役立たずって前に言われたの、忘れてませんよ」
「なんのことだか覚えてないな」
リュカの発見した抜け道を通って、四人は無事魔王城を脱することができた。しかし本当に間一髪だった。最後尾のステラが城を出たわずか数秒後、通ってきた道までもが崩落し、ついに魔王城はがれきの山と化したのだった。




