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「ネラならそこでくたばってるよ」
ステラによる激しい殴打を受けて、ネラの顔はギリギリ原型を留めているくらいにまで変形していた。片目は潰れ、鼻の骨はひん曲がっている。自分と同じ顔をボコボコにするのは少々気が引けたが、何度も拷問された事への報復にしては軽いほうだろう。
「うそでしょネラ様、なんでこんなやつらに負けてるんですか⁉能力は?早く時を戻して!ああ、なんてひどい顔に…」
「ダメ…、能力は…使えない…」
「あり得ない。ネラ様の力を封じる魔法なんて存在しないはず」
「魔法じゃ…ないの…」
「じゃあなんだっていうんですか!」
満身創痍のネラの肩を掴んでがくがくと揺さぶるシャルロ。
「それは、言えない…」
言えない理由がステラには分かっている。格下だと舐めていた相手からの挑発に乗った挙句、手も足も出せずに体はボロボロ。ステラに対して啖呵を切った手前、今更能力を使うわけにもいかない。そう、ネラの意地っ張りな性格までステラと同じなのだ。
「ステラ様、これも作戦ですか」
シャルロの力を知っているステラとチロルは警戒しているが、ミアは初対面だ。のこのこと前に出てきたので、下がるように手で合図する。シャルロの小さな子供のような容姿を見て警戒しろというほうが難しいが。
「私がネラの立場なら、変な意地を張ると踏んだんだ。予想通りあいつの能力を封じられたな」
「意味のない意地を張りますもんね、ステラ様って。正直くだらないと思ったこと何度もあります」
「そこまで思われてたの…?」
ぼろ雑巾のようになったネラは、シャルロの肩を借りて立ち上がることすら困難なようだ。すっかり足に力が入らなくなってしまい、立とうとしては膝から崩れ落ちるのを繰り返している。
「差し出がましいようですが、ちょっとやりすぎな気が…」
「分かってないな、リュカ。君たちが助けに来てくれるまでに私がどんな目に合わされたか知らないから、あんなろくでなしに同情できるんだ」
「でもさっきのはあまりに一方的でしたよ」
「私だって拘束されて串刺しにされたり頭かち割られたりしたんだよ。これを一方的と言わずしてなんと言う」
敵に情けをかける事は、時として自分を破滅に追い込む事にもなりかねない。リュカは戦士としてはこの上なく優秀だが、優しすぎるのが玉にきずだ。
「よく分かりませんけど、能力使えないならここにいちゃ危険です。逃げましょう、ネラ様!」
シャルロが一人で襲ってくる気配はなさそうだ。ここには大量の魔物の死体が転がっているのだから、その気になれば全てを操って攻撃することもできそうなものだが、死にかけの上司を放っておくわけにもいかないらしい。
「お、お姉ちゃん…いい気にならないでよね。すぐにまた殺してやるんだから」
「あー、怖い怖い」
「絶対に正体を突き止めてやる。お姉ちゃんはこの世界にいていいはずない。いいはずないの!」
ネラの口から胃液まじりの血が噴き出した。
「ネラ様、もう喋らないで!僕の腰に掴まってください。飛んで逃げますよ!」
「無理でしょ、シャルロ…。あなたの身長私の半分くらいしかないじゃない」
「あ…、ど、どうしよう。えーと、勇者さんたち。今日のところは見逃してくれないかな?」
ここで首を横に振れば、シャルロとの戦闘は避けられない。数ではこちらが有利とはいえ、シャルロには最強の手駒であるヘルガがいる。あれを呼ばれたら4人がかりでも太刀打ちできない。
「いいよ、行け」
「どうも」
親子ほど身長差があるネラを引きずって、魔王城を出ていくシャルロ。初めての魔王との対決は、なんとも中途半端な幕切れとなった。
「行かせて良かったんですか?今なら後ろから撃てますよ」
ミアが構えた杖を下ろさせる。
「君はいつからそんな卑怯者になった。僧侶の風上にも置けないな」
「ステラ様から悪い影響受けちゃいました」
久しぶりに見るミアのいたずらっぽい笑顔は、最初に出会った頃の愛おしさを思い出させた。まったく悪い子に育ってしまったものだ。




