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かかってこいと言ったくせに、先に斬りかかってきたのはネラのほうだった。雄たけびを上げながら剣を振り下ろしているが、あまりに動きが遅い。酔っていても避けられそうな太刀筋だ。
ステラは重心を後ろにずらした最小限の動きでそれをかわすと、ネラのみぞおちに蹴りを入れた。
「ぐぶっ…」
「お前、さては弱いな?能力が使えないと所詮こんなもんか。今まで戦ってきたお前の部下のほうが何倍も手強かったぞ」
壁に手をつきながら立ち上がったネラは、食堂のテーブルに手つかずのまま置かれていた果実の中から、一番とげとげしい皮のものを選んで投げてきた。ステラの腕力で投げれば皮膚に突き刺さりそうなくらい皮が尖っているが、ネラの腕では力不足。果実はステラの太ももに当たり、ぽとりと地面に落ちた。
「時を操るとかいう反則級の能力にかまけて、自己鍛錬を怠ってきたんだな。生かすも殺すもお前次第だから、そりゃ魔物どもは誰も逆らえないだろうさ。だが魔王のくせに、素の力がこれじゃあなあ」
「うぅぅぅ…」
能力を封じられたネラは、ステラに何を言われても反論できない様子だ。ただ悔しそうに唇を噛みしめ、手あたり次第散らばっているものを投げつけてくる。これではまるで子供だ。
ミアとチロルは珍しく手を取り合い、やられっぱなしのネラを見てくすくすと笑っている。リュカだけが良心を痛め、困ったような視線をネラに向けていた。
「そろそろ私も攻撃していいか?」
相手の答えを待たず、ステラはネラの胸倉をつかんで壁に叩きつけた。理不尽な拷問を受けた恨みをここで晴らしてやる。
ステラは自分そっくりの顔を思い切り殴りつけ、膝蹴りで肋骨をへし折った。
「いや…お姉ちゃん、もうやめて…」
「お前は私が頼んでも拷問をやめなかったくせに!」
「謝るから…痛いのいやだ…」
「魔王のくせに被害者面しやがって。これまでお前に殺されてきた罪なき人々だって、みんな痛いのは嫌だっただろうよ」
壁がネラの血で赤く染まり始めたころ、チロルが魔王城の入口の方向へ向けて杖を構えた。
「ミアちゃん、感じますか?なにやら強力な魔力が近づいてきてるのを」
チロルに言われて少し経ってからミアも感知したらしく、同じく戦闘態勢に入る。
「ほんとだ」
「まだまだですねえ、ミアちゃん。魔力をすぐに察知できないようじゃ、敵に寝首を搔かれて終わりですよ」
体中から血を流し、ほとんど動く気力もなくなったネラを放り投げてミアたちに駆け寄る。
「せっかくあいつに勝てそうなとこだったのに、また新手か?」
「チロルはこの魔力に覚えがあります。できればあまり戦いたくない相手なんですがね」
城の入口から食堂まではほぼ直線ルートなので、魔力の持ち主がここへたどり着くまでに時間はかからなかった。
「僕が留守にしてる間になにがあったのさ。城は壊れてるし、兵士たちはみんな死んでるし。ネラ様どこですか、ネラ様?」
ファリナの駆け落ち相手であり、彼女を殺した張本人でもある人形遣いのシャルロが城に戻ってきた。




