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続けて。魔王は私が倒すから  作者: 遠海 流


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 どうせ部下をこき使って再建するのなら、いっそのこと壊し尽くしてしまえ。そんな極端な発想が出てくるところは妙にステラと似ている。


 部屋の床が波のようにうねり、足元から崩れていく。


 「掴まって!」

 

 ミアが伸ばしてきた手を掴もうとしたが、あと一歩のところで届かなかった。ステラは背中から階下に向かって落下してゆく。


 ステラが監禁されていた部屋の真下は食堂だった。皿に盛られた脂っこい料理はほとんど手付かずのまま放置されている。食事中に乗り込んできたリュカが魔物たちをなぎ倒していったせいで、最後の晩餐をろくに食えなかったのだろう。


 テーブルの角に頭をぶつけたステラが痛む箇所を擦りながら起き上がると、すかさずネラが飛び乗ってきた。


 「ここは間もなく崩壊するけど、拠点はいくつも作ってある。魔王城が再建するまではそこに身をひそめるわ。ほら立って、お姉ちゃんは私と一緒に来るの」


 「嫌だよ、なんでお前と行かないといけないんだ!」


 「まだ秘密を聞き出せてないでしょ。お姉ちゃんが喋らないつもりなら、こっちにも考えがある。体を解剖するなり、隷属させて無理やり口を割らせるなりね」


 「知らないものは喋れないって何度も言わせるな!」


 上半身を起こした勢いでネラの頭を掴み、顎に膝蹴りを叩き込んだ。よく手入れされたネラの白い歯が砕けて、テーブルの上に飛び散る。


 「は、はら…ああひほはら…」

 

 「何言ってるか分からんな、歯抜けめ」


 歯茎から血を流したネラが、転がっていたフォークをステラの眼球めがけて振り下ろした。あやうく串刺しになるところだったが、すんでのところで顔をそらして回避する。テーブルに突き刺さったフォークのめり込み具合からして、本気でステラの目玉をえぐるつもりだったのだろう。


 先ほどまでと違い、今のステラは武器を取り戻している。お互い体制を整え、初めての真っ向勝負が始まった。


 テーブルの上から燭台を取り上げると、ゆらゆらと揺れる火に向かってネラが息を吹きかける。親指ほどのサイズしか無かった火は、瞬く間に食堂中を焼き尽くす巨大な炎へと姿を変えた。


 歯の抜けた笑い声が燃え盛る炎の中から聞こえてくる。


 だがステラにとって、この程度の炎を掻い潜ることなど朝飯前だ。一人旅をしていた頃から何度も野生のドラゴンと戦い、時には大群に囲まれて一斉に火を吐かれたこともあった。炎は風に揺られ、常に形を変える。必ずどこかに抜け穴があるのだ。


 崩壊しかけた魔王城には、幸いなことに外からの風がびゅうびゅうと吹き込んでいる。炎の揺らぎは安定しておらず、ステラはそこにネラへと通じる道を見つけた。立ちはだかる真っ赤な壁に一瞬だけ穴が生まれた。


 ステラは片手で顔を覆いながら、もう片方の手で剣を握って炎に飛び込む。


 まさか突撃してくるとは思っていなかったのだろう。ネラは燭台を取り落とし、息の抜けるような悲鳴を上げた。


 散々殺された仕返しだ。ステラの剣はネラを眉間から真っ二つに切り裂いた。


 魔王といえど血は赤い。燃え盛る炎とはまた違った赤さの血が、食堂の床に広がっていく。


 「ステラ様、大丈夫ですか…うわなにこれ」

 

 駆け下りてきたミアたちは、真っ二つに分かれたネラを見て足を止めた。


 「一人で倒しちゃったんですか?」


 ネラが動かないのを確認するため、落ちていたフォークを拾ったミアがつんつんと死体をつつく。


 「こちらの方は一体誰なんです。先ほどステラ様のことをお姉ちゃんと呼んでいましたが」


 ネラが息を吹き返して襲ってこないように、ミアを死体から引き離しながらリュカが聞く。


 「魔王だよ。魔王ネラって名前、ロメオから聞いたことあるだろ」


 魔王という単語が出た途端、リュカが剣を抜いてネラの片割れに突きつけた。


 「これが…魔王なんですか?」


 「チロルはちょっとがっかりしましたよ。魔王のイメージとかけ離れすぎてます。ステラお姉さまと顔がそっくりというのも気に食わないですねえ」


 「しかしステラ様。それですと魔王を討伐したことになってしまいますが」


 ステラはゆっくり首を横に振った。


 「こいつは斬られたくらいじゃ死なないよ。今に聞こえてくるさ、あの忌まわしい鐘の音が」


 ごおん、と鐘が鳴った。一回、二回、三回。


 次に目を開けた時には、食堂には燃えた痕もなければネラの血も流れていなかった。ついでにネラの抜けた歯もきれいさっぱり元通りだ。


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