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「もー、泣かないの。勇者でしょう?」
「うん…」
一回り近く年下のミアから慰められ、ステラの目頭はさらに熱を帯びた。
「やつれた頬、目の下のクマ、乱れた髪。そこへ泣き顔とくると、イケナイいやらしさがありますねえ。ステラ様はチロルを飽きさせません。眼福眼福」
チロルの丸出しの下心でさえも、今は心地が良い。
「そうだ、みんなはどうやってここへ?」
ステラが囚われているのは敵の本拠地、魔王城だ。ミアたち3人で乗り込めるほど警備が手薄なはずがない。
「大きな魔力を探ってきたのです。ステラ様があのシャルロとかいう少年に攫われてから、チロルはやつの魔力を追おうとしました。しかし完全に魔力を消していたようで、シャルロの探知ができなかったのですよ」
「待ってくれ。その前にチロル死にかけてたよな?」
「ああ、お腹をぶっ刺されたやつですか。それならミアちゃんに治癒してもらいました。駆けつけてくれた頃には出血多量で死にそうでしたけどね。離れたところでリュカお姉さまとなにをしていたのか知りませんが、もう少し早く戻ってきてくれれば良かったのに」
「結果的に間に合ったんだからいいでしょ。リュカ様も何度も謝らなくていいです」
申し訳なさそうに頭を下げかけたリュカを、ミアが制した。
「そんなわけで完全回復したチロルがシャルロの魔力を探るも成果なし。ステラお姉さまの居場所が掴めないと絶望していた時ですよ。シャルロのものとは比べ物にならない強大な魔力を感じたのです。ビビッとね」
チロルが感じたのは、おそらくネラの魔力だろう。
「それさえ分かればあとは救出に行くだけ。と、ここでまた問題が。場所は分かっても、そこまで行く手段がないではありませんか。チロルは途方に暮れましたよ。そこで…」
誇らしげに鼻の穴を膨らませたチロルをミアがさえぎった。
「私が思いついたんです。あのおばさんと一緒になって私を襲ったときみたいに、ドラゴンに変身して飛んでいけばいいって」
「リュカにこてんばんにやられたやつか」
「痛かったですねえ。なんせ目を潰されたんですから。ねえ、リュカお姉さま」
「ごめんなさいって言ってるじゃないですか…」
ドラゴンの羽を表すように、ミアが両手を広げる。
「私のアイデアでチロルをドラゴンに変身させて、魔力を感じた方向まで飛んでいきました。いや、びっくりしましたね。近づくほどに禍々しい城が見えてきたんですから」
「ここが魔王城ってのは知ってるのか?」
「え、そうなんですか」
「知らずに来たのかよ」
「どうりで魔物が多いと思いました」
敵の本拠地と知らずに乗り込んでくるとは。自分がパーティーに引き入れた仲間とはいえ、なんと無謀で大胆なやつらだ。
「しかしよく撃墜されなかったな。ドラゴンが飛んで来たら恰好の的になると思うが」
「そこはもう、チロルがありったけの火を噴きましたよ。あれにはコツがありましてね。二日酔いで吐きそうで吐けない時、無理にでも意の中身を出そうとするじゃないですか。あれと同じ感覚でやれば、地獄の業火が口から出ます」
そんな気持ち悪い感覚なら知りたくなかった。
「ってことは魔王城今どうなってんの?」
「半分くらいは焼け落ちました」
実によく壊される魔王城だ。これで何度目の崩壊だろうか。
「残りの魔物たちは、われらが特攻隊長、リュカお姉さまがバッサバッサとなぎ倒してくれましたよ」
「魔王軍の戦士なんて大したことありませんね、リュカ様の前じゃ」
ミアがリュカに腕を絡ませ、まるで自分の成果のように話した。
ミアの発想力とチロルの変身魔法、そしてリュカの並みはずれた戦闘力でここまで来たというのだから、驚きで声が出なかった。
囚われたステラを救うため、危険を顧みず敵地に乗り込んできてくれた3人を前に、また涙が溢れてくる。一人寂しく旅をしていた頃は感じることのできなかった仲間の温かさ。しばらくそれに浸っていたかったのだが…。
「感動の再会は済んだ?」
ミアの魔法で吹き飛ばされたネラが戻ってきた。ステラを拷問していた時には見せなかった憎悪にまみれた表情がありありと浮かんでいる。




