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ステラの沈黙を、ネラは抵抗の意思と受け取ったらしい。
「ふーん、喋らないつもりなんだ」
「違う。お前が何を言ってるか理解できてないんだよ」
「うっさい、吐け!しらばっくれても無駄だから!」
ネラの拳がステラの顎を狙ったが、頭を反らして間一髪回避した。
押し倒してくるネラの腹に膝蹴りを食らわせて、逆にステラが馬乗りになる。
「私がこの時間軸の人間じゃないだと?冗談は顔だけにしてくれ。どう考えても、時間を操ってるお前が私の世界に迷い込んだと考えるほうが妥当だろうが」
異なる時間軸を移動した経験はないが、ステラと同じ脳の持ち主なら、途中で所在地が分からなくなって迷う可能性は十分にある。少なくともステラが時間旅行をすれば、元いたところへ帰ってこられる自信はない。たいして複雑でもない道でもすぐに迷い、よくミアに怒られたものだ。
「お姉ちゃんを殺してからは一度も時を超えてない。だからあり得ないの。私がこの時間軸のオリジナルで、この世界じゃお姉ちゃんは生まれてないんだから」
「だから私が別の時間からやってきた異分子だと?」
「そう言ってるでしょ!てかどいてよ、重いし臭い!」
「臭いのはお前に殺されまくって変な汗かいてるからだよ!」
臭いというのなら結構。悪臭を押し付けてやろう。
ステラはネラの腕を押さえつけ、動物がマーキングをするときのように自分の体を擦りつけた。
「ひぃっ…」
魔王ともあろう者が、情けない声をあげながらジタバタともがく。手入れの行き届いた髪や、シミ一つない肌から分かる通り、ネラの美容への気遣いは相当なものだ。部屋やベッドも埃一つない清潔さなので、潔癖症でもあるのだろう。獣臭と汗を擦り付けられたネラが正気を保っていられるはずもない。
「ああああああぁ!」
狂ったように叫んだネラがステラを突き飛ばした。
「マジ最悪!さっき風呂入ったばっかりなのに!」
「お前、人を拷問する前に入浴してきたのかよ」
「近づかないで!それ以上来たら殺す!」
すでに何度か殺されているので脅し文句としては弱いが、下手に怒らせるのも得策ではない。
「分かった分かった。それでお前は私をどうしたいんだ。元の時間軸とやらに送り返すつもりか?」
「そうじゃない。お姉ちゃんがこの世界にいるってことは、誰かがこっちへ送り込んだってことでしょ。時間を操る能力を持ってるのは私一人のはずなのに」
「お前の仮説が正しいなら、確かにその通りだな。あれじゃないか?私のいた世界にもお前がいるとか」
「言ったでしょ。一つの世界に同じ人間は同時に存在しない。魔王ネラが存在する世界はここだけ。私がお姉ちゃんを捕まえたのは、誰がどうやって時空をゆがめたのか。その手掛かりを見つけるためよ」
「だとしたら取り越し苦労だったな。私はなにも知らないし、手掛かりは掴めないぞ」
これで諦めて解放してくれればよかったのだが、ネラはそこまで物分かりのいい相手では無かった。
「嘘だ」
「いやほんとだって」
「お姉ちゃん、私に嘘ついてる」
「信じてくれよぉ…」
ネラの目が濁った黄色に染まり、艶やかな髪が逆立つ。
「殺す。素直になるまで何度でも殺してやる」




