209
四肢を固定している拘束具を外そうともがいたが、ステラの腕力をもってしてもビクともしない。気を失う前の戦いで深いダメージを負っていることもあり、思うように力が出せなかった。
「おい、これを今すぐ外せ!」
「なに言ってんの?言われて外すくらいなら最初から拘束してないっての」
ネラがステラの腹の上に尻を載せ、圧力をかけながらあざ笑う。自分とよく似た髪の色、それに顔立ちもどこか似ている気がする。ステラを嘲笑するその声も、妙に耳になじんだ。
「私の仲間たちはどうした!」
「いや知らないし。ここに連れてきたのはシャルロなんだから、あいつに聞いてよ。あー、でもダメだ。あいつ今どっか出かけてるっぽいし」
腹部を刺されて倒れていたチロルと、あの場にいなかったミアとリュカ。3人がシャルロとヘルガの餌食になっている可能性を考えなかったわけではない。いくらリュカといえど、ヘルガ相手に戦えるとは思えなかったし、ミアの魔法など痛くも痒くもないだろう。
「…みんな生きてるんだろうな」
「だからー、知らないって言ってるじゃん。それより私のこと見て、なんか思わないの?」
「まず腹の上からどけ」
「嫌だ。このアングルから見下すのが一番気持ちいいんだもん」
そう言ってケラケラと笑う様子はまるで悪ガキだ。これが魔王だなどと信じられるわけがない。
脂汗でべっとりと額に張り付いたステラの髪を、ネラがかき上げてきた。
「ねー、ちゃんと髪の手入れしてんの?パサパサだしギトギト。あと獣臭い」
「余計なお世話だ」
「私の髪触ってみてよ。サラッサラだから。あ、拘束されてて触れないか。ごめんごめん」
見せびらかすように自慢の髪をたなびかせるネラ。人の髪質に文句を言うだけあって、まるで清流のような滑らかさだ。ステラの獣臭と違い、甘い果実のような香りが漂ってくる。
「同じ人間なのにこうも違うのかー」
「同じだと?誰がお前なんかと」
「いやいや、気づいてるでしょ。美容への気遣いは全然違うけど、私たちってほら、そっくり」
ネラがステラの隣で横になり、手鏡で二人の姿を映した。そこに映っているステラとネラは、確かに顔のパーツが瓜二つ。さっきは気のせいかと思ったが、あまりに共通点が多すぎた。
「まー私のほうが十倍、いや五十倍は可愛いけどね?」
「なんで私たちの顔が似てるんだよ。どうせお前ら魔族の魔法かなにかだろうが…」
「魔法で変身してるって思ってる?バカだね。変身するならもっと美女になってるっての。残念だけどこの顔は生まれつき」
手鏡を仕舞い、ステラの頬を突っついてくる。
「だって私たち、同じ親から生まれたんだもんね」
「…は?」
「一応生まれた順番でいうと私のほうがあとだから、お姉ちゃんって呼べばいいかな?」




