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 シャルロが操る見えない糸に逆らう手段はなく、ステラは命令通りに跪いた。


 「顔をよく見せて」


 「う…」


 顔を背けようとしたが、顎を摘まれて無理やり目をのぞき込まれる。


 「やっぱりそうだ。よかったー、あと少しで殺しちゃうとこだったよ。危ない危ない」


 「お前の操り人形になるくらいなら死んだほうがマシだ!」


 「だから殺さないって。勇者さんが名誉を守るために死にたいとか、そんなの僕には関係ないの。その顔を見てピンと来た。君には会わせないといけない人がいる」


 誰かと引き合わせられるような心当たりはない。ましてやシャルロの知り合いということは、魔王側の人間。いや、人間かどうかも怪しいが、とにかくステラの顔見知りにそんな相手はいなかった。


 「なにを考えてるか知らんが、お前の勘違いだ」


 「違うんだな、それが。とりあえず一緒に来てもらうから」


 「どこへ連れていく気だ!」


 「決まってるじゃん。魔王城だよ」


 まるで朝の散歩に連れ出すような軽い口調で、魔王城という言葉を口にしたシャルロ。かつてロメオたちが崩壊させかけたという、敵の根城だ。


 「私を魔王城に連れていって何をするつもりだ」


 「言ったでしょ、会わせたい人がいるって。ほら、僕の腕につかまって。一瞬で魔王城まで飛んであげるから」


 掴みたくない。そう頭では思っていても、ステラの腕はシャルロへと向かっていく。


 「ふざ…けるな。誰がお前の言いなりになるか!」


 見えない操り糸を引きちぎるつもりで腕を振り上げ、シャルロの顔面に拳を叩き込んだ。


 「へえ、僕に操られてたのに自由に動くなんて、今度の勇者さんは一味違うね。でも今ので完全に壊れちゃったでしょ」


 「あ…」


 一瞬の自由と引き換えに、ステラの腕は皮膚が剥がれて筋肉の繊維がむき出しになっていた。引きちぎった操り糸ごと皮膚が持っていかれたのだろう。もはや神経がおかしくなり、痛みすら感じない。 


 歯の隙間から漏れる自分の荒い息の音が、徐々に遠くに聞こえてくる。もう意識がもたない。


 ステラが倒れる寸前に見たのは、ヘルガを従えて満足げに笑うシャルロの姿だった。

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