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勝てないと分かっている勝負に挑み、むざむざと命を散らすのは愚かな選択だ。戦いのすべてを叩き込んでくれたカリンに、そう教わってきた。これがステラ一人なら、戦略的撤退としてこの場から逃げていたかもしれない。
しかし倒れたチロルを置いていくわけにもいかず、そのうえ相手は二人。シャルロだけならなんとかなっただろうが、復活したヘルガから逃れられるとは思えなかった。ステラの動体視力をもってしても一切その動きを捉えきれなかった相手だ。背中を向けた瞬間に串刺しにされて終わりだろう。
戦うしかない。
ステラは足の震えを必死に抑え込み、手汗を拭って剣を握りなおす。
「え…」
その直後、ステラの剣は弾き飛ばされ、はるか後方で金属が地面とぶつかる音がした。
どこへ飛んでいったのか確認する間もなく、顎に拳が叩き込まれる。目の前に星が散り、ステラの視界が真っ暗になった。
「今度の勇者さんも結局は口だけかあ。前のやつよりはマシだけど、勇者ってみんな弱っちいのかな。それとも、ヘルガが強すぎるだけ?」
視界に光は戻ってこないが、シャルロの声だけは聞こえてくる。
「そこそこ綺麗な顔してるし、勇者さんもそこで倒れてる魔法使いも、僕の操り人形にしてあげよっか?このまま殺すのも味気ないしね」
敵に操られるくらいなら死んだほうがマシだ。ミアとリュカは外の空気を吸いに行ってから戻ってこないが、彼女たちを襲う羽目にでもなれば、あの世に行っても後悔し続けるだろう。
「こ…ころせ…」
「ん?殺してほしいんだ。そう言われると意地悪したい気分になるなあ」
シャルロの能力が発動したらしく、ステラの意思に反して背中が反り、見えない糸に引っ張られているように腕が上がっていく。
「手始めに仲間の魔法使いにとどめを刺してもらおうかな?」
一歩、また一歩と足がチロルへと近づいていく。剣を握る手には力が入らないが、動けない相手の首を切り落とすくらいなら造作もない。
「チロル、逃げろ…!」
「勝手に喋らないで」
シャルロがそう命じると、ステラの上唇と下唇が固く接着された。無理に口を開こうとすれば、顔の皮膚が裂けてしまいそうだ。
チロルがゆっくりと目を開けて、ステラを見上げる。
「ステラお姉さまに殺されるなら本望です。心残りがあるといえば、お姉さまと永遠の愛を誓えなかったことくらい。でもチロルは諦めていませんからね。あの世で再び会ったときには、今度こそチロルのものになってもらいます」
辞世か呪いか曖昧な言葉を残し、チロルは覚悟を決めたように目を閉じた。
「んんっ…!」
閉じられた口の中で叫ぶも、くぐもった声が出るばかりで言葉にならない。
チロルに向かって振り下ろした剣は、彼女の首を切り落とす寸前でぴたりと止まった。
「ストップ、勇者さん。もしかして、いや、僕の勘違いかもしれないけど、一応確認したいことがある。ここに来て跪いてくれるかな?」




