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シャルロの指が再び鍵盤を弾くように動き始めた。腰のあたりで真っ二つに斬られたファリナは、死体をも操れるという人形遣いの能力をもってしても、動かすことは出来ないらしい。代わりに新しい人形となったのは、この場に転がるもう一人の死体。
伝説と呼ばれた戦士、ヘルガだった。
骨と皮だけになった老婆のヘルガが、風が吹けば折れそうな腕で剣を振り上げる。その攻撃はわざわざ避けるまでもない。ステラはヘルガの手首を掴んで捻り上げ、地面に組み伏せた。
「舐められたもんだな。こんなババアで私を倒せるとでも?」
老人に暴力を振るっているみたいで気が進まないが、操られているせいでジタバタと暴れるので、ヘルガの頭を押さえ込む。
「やっぱそのままじゃダメかあ。ひと手間加えないとね。おいで、ファリナ」
臓物をまき散らして上半身だけになったファリナが、ずるずると見えない何かに引きずられるようにして、ヘルガのもとへ向かっていく。
「キモっ…」
「ひどいね、さっきまで仲間だったのに」
「お前に言う資格があるか」
首が据わっておらず、前後にがくがくと頭を振りながら近づいてきた半身のファリナが、ヘルガの目の前で倒れた。
「最後に一仕事してもらうよ、ファリナ」
シャルロが指を鳴らすと、ファリナの体がどろどろと溶けていった。硫黄のような悪臭に、ステラは激しくせき込む。
「ファリナになにを…うっ…これやばい」
一度吸い込んだ臭いが、鼻の奥、そして肺の中まで満たしており、喋ろうと口を開けばさならる悪臭に襲われる。
チロルはと見ると、以前にミアが使っていたような防御魔法を展開して、臭いからちゃっかり自分を守っていた。
「私もその中入れろよ!」
「チロルの防御魔法は一人用ですがゆえ。ああステラお姉さま、そんな潤んだ瞳で見ないでください。チロルの魔法が未熟なばっかりに」
これ以上嗅いでいると鼻が壊れてしまいそうなので、どろどろに溶けたファリナから距離を取る。
「おえ…、なんだよあれ」
恋人に捨てられ、両腕を失い、臓物をぶちまけ、ついにはヘドロのようになったファリナ。どれだけ神の怒りを買えば、こんな最期を迎える羽目になるのだろう。
「げっ、ヘルガさんがファリナお姉さまだったものを舐めてますよ」
「うわほんとだ。絵面がグロすぎる」
老婆の死体が頭を突き出して、溶けたファリナを舐めている。おぞましい、なんて言葉では言い表せない光景だった。
ぴちゃ、ぴちゃとヘルガの舌がファリナを舐め取る音だけがしばらく聞こえていた。
「そろそろいいんじゃないかな、伝説の戦士さん?」
シャルロがぱん、と手を叩くと、ヘルガがゆっくりと立ち上がった。枝よりも細かった腕は一瞬で筋肉が盛り上がり、木の幹ほどの大きさに。ニワトリのようだった足も、見事なまでの馬脚へと変わっていく。顔に刻まれた皺は消え去り、白濁していた目には闘志の炎が宿っている。
「よーしよし、成功、伝説の戦士の復活だ!」
老婆の姿はもうどこにもなかった。血色が戻った褐色の肌に、筋骨隆々の手足。短く刈り上げた頭髪と、爛々と輝く目。魔王軍が恐れたという女戦士、ヘルガがそこにいた。




