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両腕を失い、立ち上がることもできず芋虫のようにもがくファリナには、人間としての尊厳はおろか、魔族としての威厳も何もなかった。これが魔族に魂を売った人間の末路。もはや憐れみの感情すら湧いてこない。
「ファリナお姉さま、なんてむごたらしいお姿に」
「もうファリナは戦えないぞ。こいつを連れてお引き取り願おうか」
「えー、いらないんだけど。そっちで処理しといてよ」
仮にも恋人関係にあった相手に対して、処理なんて言葉を使うシャルロにぞっとする。魔族だから当然といえば当然だが、本当に人の心がないのだろう。
「こいつはもう人間じゃないし、私たちの敵だ。死んだわけじゃないんだから、お前みたいにそのうち腕も再生するだろ?こいつを惑わした責任を取ってくれ」
このままファリナを捨てていくこともできるが、復活して襲ってこられても困る。それならシャルロに引き取ってもらったほうが、まだマシだ。
「やだ。気持ち悪いもん」
「この人でなし…!」
「どうせならボロボロになるまで使ってあげる」
シャルロが両手の指を動かし、空中で鍵盤を弾くような動作をした。
「気をつけてください、何かしかけてきますよ」
チロルが隣に立って杖を構える。
てっきり先ほどのファリナのような派手な魔法を放ってくるかと身構えたのだが、シャルロは軽やかに指を動かすばかりだ。
「なんなんだ、あの動きは」
「チロルにも分かりませんが、確かファリナお姉さまが言ってませんでしたっけ。シャルロの能力は、人形遣いだと」
「ああ、死体でもなんでも操れると…」
シャルロの動きに気を取られていたステラのわき腹に、後方から蹴りがさく裂した。
「ぐっ!今蹴ったの誰だ!」
チロルなはずがないので、彼女を除くとこの場で動けるのはシャルロだけ。しかしシャルロはステラの正面から移動していない。ならば誰が?
「ははあ、なるほど。これはかなり厄介な能力ですね。チロルも色々と魔法を見てきましたが、こんなのは初めてです。今ステラお姉さまを蹴ったのは、あれですよ」
「あれって…、ファリナ?」
腕を切り落とされて肩から血を流しているファリナが、どこを見ているか分からない虚ろな目のまま、再び蹴りを繰り出してきた。関節があり得ない方向に曲がっているせいで軌道が読めず、ステラの顎に直撃する。
「…ってぇな!なんで動けるんだよ!」
「チロルが思うに、人形遣いに操られているんですよ。自分の意思とは関係なく、ただシャルロの意のままに動く人形。それが今のファリナお姉さまです」
「さっき関節が変な曲がり方をしてたのも、操られてたせいか。そうだよな、普通あんな動きに人体が耐えられるわけない」
シャルロの口はだらしなく開き、目はそれぞれ別の方向を向いている。左右のつま先を八の字に開き、カタカタと膝を震えさせる様子は、まるで下手くそなダンスを踊っているようだ。
「うーん、やっぱ腕がないとバランス悪くて操りにくいなあ」
「お前、どこまでファリナの尊厳を踏みにじれば気が済むんだ」
「尊厳?そんなの僕に魂売った時点で失ってるでしょ」
「それにしたってこんなのあんまりだ。いっそのこと死なせてやれよ」
「そのつもりだけど、どうせ殺すなら最後まで使い倒したいじゃん?ちょうどいいオモチャになりそう!」
不格好な走り方でファリナが迫ってくる。魂の抜けた顔で、足だけで攻撃してくる絵面は信じられないほど気味が悪い。今夜の夢に出てきそうだ。
「悪く思うなよファリナ。こうなった責任は、大体お前にあるんだからな!」
ステラは心を鬼にして、ファリナの胴体を真っ二つに斬った。内臓が飛び散り、チロルの頭に腸の欠片が乗っかった。
「おえっ、きたなっ!」
今度こそ完全にファリナは動かなくなり、もう呼吸もしていなかった。魔王軍を追い詰めたパーティーの僧侶が、まさかバラバラ死体となって最期を迎えるなど、当時のメンバーたちは誰一人予想しなかっただろう。
「お前のオモチャは壊した。ガキの遊びの時間は終わりだ」
「んー、一つ忘れてない?ここにもう一つ、死体があるってこと」




