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チロルと作戦会議をしている時間はなかった。ファリナが放つどす黒い閃光、シャルロ曰く当たれば即死という恐ろしい魔法がステラを狙う。
「なんで私への殺意がそんな高いんだよ!なんか気に食わないことでもしたか⁉」
答えの代わりに飛んでくる攻撃を、後ろへ飛びずさってかわす。魔法の効果こそ絶大だが、唯一の救いは軌道が単純で避けやすいことだった。人間だった時のファリナなら、もっと的確に標的を狙っていただろう。今のファリナは冷静さを失っているせいで、単調で直線的な軌道でしか攻撃してこないので、見極めるのは容易だ。
だが避け続けていても勝ち目はない。ファリナの懐に入り込みさえすればこっちのもの。魔法使いは遠距離には強いが、近接戦闘ならステラに分がある。
「チロル、援護してくれ!」
ステラが後方のチロルに向かって叫ぶよりも前に、彼女は行動に出ていた。
辺りに散らばった岩の破片を浮遊させ、それらをファリナめがけて飛ばした。器用にステラのいる場所だけを避けて、石のつぶてが雨あられとなって降り注ぐ。
「やはり魔法の使い方はミアより上手いな。先輩風を吹かせるだけある」
「センスの塊なのですよ、チロルは。まあこの程度で倒せるとは思ってませんが…」
かすり傷の一つくらい負わせることが出来れば良かったのだが、チロルの攻撃はまったく通用していなかった。放たれた岩は粉々に砕け、もうもうと舞う砂埃の中に立っているファリナは血の一滴も流していない。
今の攻撃でファリナの標的がチロルに変わったらしい。例の黒い閃光が、今度はチロルめがけて放たれた。
「おわっ!ちょっと、ひどいじゃないですか!年下のか弱い女の子を殺そうとするだなんて!」
「ちょうどいいや、囮になっておいてくれ。私がその間にあいつをやる」
「チロルが死んでしまいますが!」
「お前ならなんとかできるさ。お姉さまからの命令だ。死ぬなよ」
一度はミアのために命を投げうった女だ。死ぬ覚悟が出来ている人間ほど強いものはない。
「仕方がありません、やりましょう。今夜はたっぷりご褒美を頂きますからね」
「検討しておく」
チロルとファリナの魔法が空中でぶつかり合う。威力こそチロルが押されているが、持ち前の器用さでファリナの攻撃をうまく受け流している。その隙に相手との距離を詰めるステラ。剣を振ればファリナを斬れる位置まで接近する。
ステラの気配にファリナが気づいた頃には、もう対処するには遅すぎた。近接戦闘に弱い魔法使いの弱点が、ここに来て露呈する。
魔法を放っていたファリナの左腕が、飛び散る鮮血とともに体から離れていった。あれだけ出血しておいてまだ血が出るとは。
「悪いが右腕も斬らせてもらうぞ。どうせそっちからも魔法出せるんだろ?」
ステラは体を半回転させた勢いで、もう片方の腕も斬り落とした。
ファリナは両腕を失ったわりには痛みに顔をゆがめることもなく、まるで斬られたことにも気づいていないような様子だった。先ほど指を吹き飛ばした時もそうだったが、魔族になったことで痛覚を失ってしまったのだろうか。
「バランスの悪い体になっちゃったね、ファリナ。そんなんじゃ愛せないよ」
一切助太刀をする気もなく、戦いを傍観していたシャルロがせせら笑う。
「腕を斬られた恋人にかける言葉がそれかよ」
「だからほんの遊び相手だって言ってるじゃん。それにしても、ファリナのいいところなんてスタイルの良さくらいしか無かったのに、全部ダメにしちゃうなんて勇者さんもひどいね」
「私はこれまで色んな魔族に会ってきたが、お前が一番性格悪いよ」
「あはは、それネラ様にもよく言われる」
さすがに両腕が無ければ魔法を放つことは出来ないらしく、ファリナは重心を失って前のめりに倒れこんだ。人間時代に頑張って若作りしてきた綺麗な顔が地面に打ち付けられ、鼻の骨がぐしゃりと曲がった。




