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服を脱いで覆いかぶさってくるファリナを、シャルロの細腕が押しとどめる。
「魔族になりたいなんて、本気で言ってるの?」
「冗談でこんな事言わないわ。あなたと一緒になれるなら、人類の敵になろうが構わない。ネラに顎で使われるのは嫌だけどね」
ファリナは自らの魂と、人間としての尊厳を捨て去ろうとしている。出会って数日の相手が人間を辞めようとステラの知ったことではないが、問題はファリナが敵に回った時のことだ。僧侶のくせに破壊的な魔力を持っているので、戦うとなればかなり厄介な相手になるだろう。これまでの旅路で魔王軍の戦力を徐々に削ってきたというのに、ここで新たに増えられては困る。
「あいつを止めないと!そうだ、ミアたちはどこへ行った?」
「さっきミアちゃんが風に当たりに行ったきり、付き添いのリュカお姉さま共々帰ってきませんね。どうせ二人きりなのをいいことに、イチャイチャしているのではないですか?」
「こんな時にあいつらは!」
今から呼びに行く時間はない。シャルロの実力がどの程度なのか未知数だが、ファリナが敵に寝返ることさえ防げれば勝機はある。今のところシャルロが見せた能力といえば、ファリナに教わったという透明化の魔法と驚異的な再生能力だけ。人形遣いの力でファリナを死地に追いやったという話から、手ごわい敵であることだけは明白だが。
チロルがファリナの腰に手をまわして、ぐいぐいと引っ張る。
「ファリナお姉さま、お気を確かに!魔族になってもいいことありません。せっかくの綺麗なお顔が、化け物みたいになっちゃうかもしれないんですよ」
「シャルロを見てみなさいよ。人間と見た目は変わらないし、とっても可愛い顔をしてるでしょ」
「それはほら…、個人差がありますから。ファリナお姉さまはこれまで美容に気を遣ってこられたじゃないですか。お肌にしみもないし、水も滴るいい女!魔族になったら、多分お肌とかカッサカサになりますって。チロルが戦ってきた魔物は全員、岩みたいな肌をしてましたよ!」
美容面でファリナを説得しようと試みているが、効果はまったく見られない。
「ああもう、うっとうしい!離れなさいよ!」
ファリナの肘鉄がチロルの腹に打ち込まれた。
「ぐふっ…!だ、ダメです、ステラお姉さま。あの人の心を動かすのは至難の技。選手交代です」
「もういい、寝てろ」
敵意むき出しのファリナのもとへ近づき、ステラは言った。
「禁断の愛」
「なんですって?」
「人間と魔族という異種族間の許されざる恋愛。お前が燃え上がったのは、その背徳感も理由なんじゃないのか?」
「そ、そんな事ないわ。知ったふうな口をきかないでよ」
しかし否定するファリナの口ぶりには迷いがあった。多かれ少なかれ、背徳感が恋の炎に油を注いだのは間違いないだろう。
「お前は男も女も好き放題食いまくったせいで、人間相手じゃ満足できなくなったんだよ。それで魔族に惹かれ、あろうことかシャルロと駆け落ちした。でもお前がそっち側になったら、異種族間という興奮材料がなくなってただの恋愛になるぞ?いいのか?」
「だからそんなんじゃ…」
ない、と言いきれないところにファリナの本音が出ている。
「今ならまだ間に合う。戻ってこい、ファリナ。人間辞めてまで付き合う相手じゃないよ、そいつは」
ファリナはしばらくの間、シャルロに跨ったまま沈黙していた。
「ファリナ、重いよ。そろそろ一回どいてくれないかな?」
「やだ」
ファリナは髪をかきあげて、シャルロに覆いかぶさってキスをした。
「私の意思は変わらない。魔族になって、シャルロと一緒に行く」
人目を憚らず、といってもステラたち以外は誰もいないが、洞窟が吹き飛び森が燃えた荒地の真ん中で、ファリナとシャルロの儀式が始まった。それはステラの予想した通り、人間でいうところのまぐわいだったが、明らかに人のそれよりも激しい。
「これはもう止められませんよ。色んな意味で」
「チロル、戦う準備をしておけ。敵が二人に増えるぞ」




