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息の根を止められたヘルガは、最期にカエルの潰れたような音を立てて動かなくなった。
「これでネラ様も安心できる。ま、こんなよぼよぼで復活してたんなら、わざわざ僕が手を下すまでもなかったかもね。それじゃ用は済んだから、僕は行くよ」
「待って!」
人を殺めたばかりとは思えないほど軽やかに立ち去ろうとしたシャルロを、ファリナが引き止める。
「せっかく会えたのに、またネラのところに戻っちゃうの?」
「そんな顔しないでよ。僕だってファリナを置いていきたくないけど、一緒に来るってわけにもいかないでしょ?ネラ様にとってファリナは敵なんだし、連れて帰ったら殺されちゃう」
「そうだけど…。じゃあシャルロが私とここに残ればいいじゃない。やつらが攻めてきたら返り討ちにすればいいわ。こっちにはドラゴン二体を相手に圧倒する戦士に、荒削りだけど魔力は膨大な魔法使い。神のご加護に目覚めた僧侶に、腕っぷしの強い勇者もいるわ。それに、魔王軍が最も恐れるロメオさんもね」
「僕あの人嫌い」
「ね。だから私と一緒にいてよ」
こんな必死なファリナは初めて見た。その様子はまるで、駄々をこねる子供のようだ。
「そう簡単な話じゃないんだよ。ファリナなら分かってくれるでしょ。ネラ様のもとに人間を連れていくわけにはいかないし、ましてや一度戦った相手だなんてとんでもない。僕たちは所詮、魔族と人間。駆け落ちまでは許されても、本当の意味で結ばれることはないんだって」
「種族が違うのが問題だっていうの?」
ファリナが鼻を啜り上げる。
「なら私が魔族になれば、二人は結ばれるってこと?」
「お前、自分が何言ってるか分かってるのか!」
「ステラちゃんは黙ってて。これは私たちの問題」
黙れと言われて大人しく引き下がれる問題ではない。目の前で魔族に魂を売ろうとしている人間がいるのだから。
「お前がどんだけそいつに惚れこんでるか知らんが、魔族になるなんてバカげた考えは捨てろ。そいつは上司命令で簡単にお前を捨てるような男だぞ」
「他人事だからそんな事が言えるのよ。同じ立場になって考えてみてよ。もしステラちゃんの恋人が魔族だったら、一緒になるために人間を辞めるくらい些細な事だと思わない?」
カリンは魔王の側近であるオルタナに殺されたが、もしあの時に息の根を止めるのではなく、魔族側に取り込まれていたとしたら?そしてステラを向こう側へ引き込もうとしてきたなら、カリンを突っぱねることは出来ないかもしれない。
「ほら、自分だって同じじゃない。私はそもそも世界がどうなろうが知ったことじゃないのよ。魔王討伐を第一に考えてたなら、シャルロと駆け落ちなんてしないで最後まで戦ってたわ。どうでもいいのよ、最初から!」
十年前の勇者パーティーには本当にろくな人間がいない。ここまで堂々と世界平和に興味がないと言われてしまうと、いっそ清々しい。
「いいでしょ、シャルロ。私がそっち側につけば、ネラも私を拒否する理由はなくなるはずよ。魔族に魂を明け渡す方法は知ってる。今すぐにでもここで実行できるわ」
なぜか服を脱ぎだすファリナ。まさか魂を売るのに必要な行為が、魔族とのまぐわいだとでもいうのか。
「落ち着いて。僕はファリナに人間のままでいてほしいんだ」
ファリナが脱ぎかけた服をそっと戻し、シャルロが彼女の肩を優しく抱いた。
「でも、このままじゃまたお別れしないといけないじゃない。そんなの嫌!」
シャルロを押し倒したファリナが、少年のように小さな体に、自らの成熟した豊満な体を重ね合わせた。
「ほうほう、これは見ものでございますね。チロルとしてはファリナお姉さまが下のほうが良かったのですが、これもまた乙なもんです」
チロルは地面にあぐらをかき、事の成り行きを見守ろうとしていた。




