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「怖い顔しないでよ、勇者さん。もしかして僕が襲いに来たって思ってるの?」
「そう考えるのは不自然じゃないだろ。お前は魔王軍に出戻りしたわけだし、今もネラとやらの指揮下にあるはず。ここに来たのはなにか理由があるに違いない」
「やだなあ、襲うつもりならとっくにやってるよ。敵対する意思があるなら、最初に透明化してた時点で首を搔っ切ってたよ。でも僕がやったのは、勇者さんをくすぐることだけ。敵意があるように思える?」
シャルロの言う通り、殺そうと思えばあの時点で殺せていたはずだ。透明化しているシャルロの動きをステラが捉え切れていなかったタイミングで、刺すなり斬るなりできた。だがそうしなかったのは、シャルロに少なくとも殺意はないということだ。
「ならばここに来たのは気まぐれだと?」
「うん、ほんとにただの偶然」
「嘘だな」
ステラは剣を抜き、シャルロの首筋に切っ先をあてがった。
「少しでも動けば頭を切り落とすぞ」
「なにするの、やめて!」
脅されたシャルロではなく、ファリナが叫ぶ。
「どうせ首を落としたくらいで死なないだろう?体に大穴開いてもピンピンしてたくらいなんだ」
「ひどいよ勇者さん。死なないけど痛みはあるんだからね」
「痛い思いをしたくないなら質問に答えろ。なぜ私たちに接触してきた」
シャルロが黙っているので、ステラは剣先を首に押し込んだ。ずぶ、とシャルロの肉体に刃が沈み込む。
「喉やられちゃったら喋れないよ。刺すなら別の場所にしない?」
「とっとと話せば済む話だ」
「はあ、分かった分かった。大人しく話すから、剣をしまってよ」
話す意思はあるようなので、剣をひとまず首筋から離した。しかしシャルロを信用したわけではなく、いつでも斬りかかれるように体勢は整えておく。
「今度の勇者さんは怖いなあ。前の人はあんなビビりでポンコツだったのに」
うんうん、とファリナが頷いている。ロメオとファリナは互いに嫌いあっているようだが、先日二人が話していた時、勇者がどうしようもない人間だったという点においては意見が一致していた。
「えーと、僕がここに来た理由ね。あれだよ、あの人」
「あの人?」
シャルロが指さした方向にいたのはチロルだった。
「え、チロルに会いに来たんですか?すいません、年下でしかも男ってチロルの好みから全部外れているので、残念ですがお帰り願います」
年上の女好きのチロルは、はっきりと拒絶の意思を示す。
「違うよ。僕だってあなたみたいな人はお断り。年齢のわりに子供っぽいし、ファリナみたいな大人の魅力がないよね」
「なんですと、クソガキ!」
「そうじゃなくて、僕の目的はあの人」
よく見るとシャルロが指差していたのは、チロルの奥で倒れていたヘルガだった。もう虫の息で、ほとんど死んでいるといってもいい状態だ。誤った手順で封印を解いてしまったばっかりに、精力を吸われ切った状態で復活させてしまった哀れな伝説の戦士。腕は枝のように細く、首はいまにも折れそうだ。
どうせ放っておいても死ぬのだから、リュカの提案で埋葬してやろうということになっていた。シャルロの邪魔が入らなければ、ヘルガは今頃土の下だ。
「あんな死にかけの老体になんの用なんだ」
「ネラ様、あいつのこと大嫌いなんだよ。昔戦ったときにずいぶん苦しめられたみたいでさ。それでちょうど封印が解けそうな気配があったから、ついでに始末してこいって言われたの」
「なら目的は達成したじゃないの。わざとじゃなとはいえ、私たちが始末しちゃったみたいなもんだし」
「私たちっていうな。原因のほとんどはお前だろ」
ファリナの魔法で無理やり封印が解かれてから時間が経過しているが、まだヘルガは生きているのだろうか。シャルロとの距離を保ちながら横目でヘルガを見ると、わずかに胸が上下しているのが分かる。ギリギリ息はあるようだ。
「ちょっと僕にも見せてもらえる?」
大丈夫、というふうにファリナが目くばせをしてきたので、ステラは剣を下ろしてシャルロを通した。
「へー、なるほどね。これがネラ様を追い詰めたなんて信じられないなあ」
シャルロは死にかけのヘルガをしばらく観察していたが、突然その細い首を締め上げ始めた。
「なにを…!」
生き埋めにしようとしてたステラに止める権利はないが、それでもとっさに体が動く。
「終わったよ。お仕事完了」
ステラがシャルロの体を押しのけた頃には、すでにヘルガは絶命していた。伝説の戦士と謳われた女の最期がこんなにもみじめだなんて。




