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「私はね、もともと魔王討伐なんて興味なかったのよ。生まれ育った田舎の村にもそれなりに男はいるから、適当に結婚して子供を作って、穏やかに人生を終えるつもりだったの。でもある夜、私の人生は一変した。旅の途中で村に立ち寄った魔法使いの男性が私に惚れちゃったみたいで、寝込みを襲われたのよ。あの時は肝が冷える思いだったわ。今でこそこんなだけど、あの頃の私はまだ大人にもなってないいたいけな少女。怖いけど必死に抵抗したわよ。それで取っ組み合いになって、思わず相手の持ってた杖を奪ったの。その時、私の中の魔法の才能が開花した。それまで魔法なんて使ったことなかったし、自分には一生縁のないものだと思ってたけど、杖を持った途端に力がみなぎるのを感じたわ」
「夜這いされて魔力が発現したのか。ファリナらしいっちゃらしいな。その魔法で男を撃退したのか?」
「殺したわ」
「ころっ…、マジ?」
「殺すつもりは無かったけど、気づいたら吹き飛んでたのよ」
「頭が?」
「もうちょっと下」
「腹?」
「二度と私を襲えないようにと思って、男として終わらせてやろうとしたの」
それを聞いたシャルロが身震いした。つまりは生殖機能を破壊してやろうという魂胆か。そこを吹き飛ばされる痛みを想像すると、女のステラでも足の間に激痛を想像してしまう。
「ショック死か出血多量か。どちらにせよ、男は死んだわ」
「それで僧侶になる経緯がまるで分からん。闇の魔法使いとかそっちに行くなら分かるが」
「私も人を殺めたことを悔いてたのよ。だから神のご加護を受けて僧侶になって、これからは人を傷つけるのではなく救う立場になろうと、そう決めたの」
「それはご立派だが…」
贖罪のためとはいえ、魔法の力を人助けに使おうと考えたのは結構なことだ。だがロメオから聞いた話では、ファリナはとにかく性に奔放で、男女問わず不純な関係を持ってきたらしい。
「どうして今みたいになっちゃったんだよ」
「勇者パーティーに誘われたのがきっかけね。私の住む村に立ち寄ったあの臆病者の勇者が、ちょうど僧侶を探してたところだったの。それで私にもスカウトの声がかかって、旅に同行することになったわけ。そうすると色んな街や国に行くわけで、その先々で素敵な殿方や可愛い子たちに会った。田舎育ちからしてみれば、みんなキラキラで眩しかったわ。どうすれば自分のものにできるんだろうって、そればかり考えるようになった。そして分かったのよ。欲しいなら、手籠めにしてしまえばいいってね」
ファリナに悪魔が舞い降りたのが、まさにその瞬間だったのだろう。ステラとの疑似恋愛にも一切の躊躇が無かったのも、相手が女だろうとあの手この手で篭絡してきた経験があるからか。そういえばキスが随分と上手かったが、あれも経験がなせる技。ステラはファリナとの口付けを思い出して、唇を軽く噛んだ。
「人間って一度一線超えると、もう止まらなくなるのよ。いい男や可愛い子を見つけたら、なにがなんでも自分のものにする。そして飽きたら捨てて、別の相手に行くっていうのを繰り返すようになったわ」
「お前いつか殺されるぞ」
「私を殺すなんて並大抵の人間には無理よ。それで旅の終着点、魔王城での戦いの時、シャルロと出会ったわけよ。私たち勇者パーティーは大所帯だったから、いくつかに別れて戦ってたの。勇者とロメオさんたちのチームが最終的に魔王と対峙したんだけど、私は別行動してた。そこで戦うことになったのが、シャルロってわけ」
「いやー、あの時は驚いたよ。てっきり勇者が戦いに来るのかと思ってたら、女の子一人なんだもん。これじゃ一瞬で終わっちゃう、つまらないなって舐めてたんだけど、強かったね、ファリナは」
ミアとの喧嘩の時や、先ほどシャルロに放った魔法も全力ではないはずだ。ファリナが本気を出せば、相手が魔王であろうが無事では済まないだろう。
「あなたも手ごわかったわよ。人形遣いと戦うのなんて初めてで、正直かなり焦ってた。だって信じられる?シャルロったら、ゴーレムから甲冑、それに死体まで自在に操ってくるのよ。私一人で対処できる数じゃなかった」
「人形遣いってなんでも操れるのかよ。恐ろしいな」
「戦いはほとんど私の負けで決着したわ。殺そうと思えば殺せたはず。だけどシャルロは私にとどめを差さずに言ったのよね」
ファリナがシャルロに目くばせする。
「僕の人形にならない?って。確かそんなふうに言ったっけ」
ファリナがこくりと頷く。
「ファリナが欲しくなっちゃったんだよ。あんなに強くて美しい女の子、殺すのはもったいない。僕の操り人形として、ずっと飼ってあげるつもりだったんだ。けど…」
シャルロが口ごもると、ファリナがそのあとを継いだ。
「最後の力を振り絞って、私が逆にシャルロを襲ったの。あ、襲うってそっちの意味でね」
「いきなり脱ぎだすんだもん。びっくりしちゃった」
壮絶な戦いの情景を想像していたステラの脳内に、いきなりファリナの裸体のイメージが入ってきた。
「ぬ、脱いだ…?」
「私は欲しいものをなんでも手に入れてきた。それなのに、操り人形として隷属されるなんてまっぴらごめん。だから私は消えかかった命の灯火を無理やり燃やして、シャルロを組み伏せた。そして…」
当時を思い出す二人の表情から、さぞかし刺激的な瞬間だったのだろうと想像できる。
「私たちは恋に落ちた」
「おい、なんかすっ飛ばしただろ」
「僕も立場上、ネラ様にこのことがばれるとまずいから、しれっと駆け落ちしてファリナと一緒に行方をくらませたってわけ」
ファリナがファリナなら、シャルロもシャルロだ。世界平和も征服も、二人にとっては二の次。勇者も魔王も放り出しての逃避行とは、なんて身勝手な連中なのだろう。
「それなのに、どうして急にいなくなったのよ」
「あの戦いで深手を負ったネラ様が復活しちゃったんだよ。それで元側近の僕にもお呼び出しがかかったの」
「無視すれば良かったじゃない」
「無理だよ。どこにいてもネラ様の目からは逃れられないし」
年甲斐もなく膨れるファリナ。
ふと、ステラはある違和感を覚えた。
「シャルロ、お前さっきから普通に私たちと喋ってるが、魔王軍を抜けたわけじゃないだろう?なら私たちに接触してきた目的があるはずだ」
「それは私に会うためじゃないの?」
「違う。こいつはファリナのことなんて最初覚えてなかった。答えろシャルロ。お前はなんのために私たちに近づいてきた?」




