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「老けたですって?ええ、そうでしょうね。十年なんて魔族のあなたからしてみれば一瞬かもしれないわ。でも私は人間なの。十年もすればそりゃしわも増えし肌だってくすむわよ。そんなにおばさんになった?年齢より若く見えるってみんなに言われるけどね?ほら、もっと近くで見てみなさいよ。そんなにしわもないでしょうが!」
ファリナの背後で燃えあがる森は、彼女の怒りを体現しているかのようだった。しかしこの一帯の緑をすべて焼き尽くすとは、なんて魔力だ。ミアとの戦いで洞窟が崩れ、シャルロの失言で森が消えた。どちらもファリナの魔法がもたらした人災である。
四肢を拘束されて、ファリナに杖を向けられているにも関わらず、シャルロはへらへらと笑っている。
「ごめんごめん、そんなに怒るとは思わなくてさ。確かに十年経ったわりにはそこまで老けてないかも。うん、綺麗だよ、ファリナ」
「なに、その取って付けたような言い方。ほんと人の気持ちを踏みにじるのが得意よね。そういうところ嫌い。マジで大嫌い!」
鬼の形相で吠えるファリナ。そんな顔をしているとしわが増えてしまい、せっかくの若作りが無駄になるではないか。
「助けて勇者さん。僕殺されちゃうよー」
正体が人間でないと分かっていても、少年にしか見えないあどけない笑顔でシャルロが助けを求めてきた。この余裕からして、たとえファリナが全力の魔法をゼロ距離で放っても死ぬことはないのだろう。ならば放っておけばいい。女性に対して失礼な発言をした報いを受けるべきだ。
「殺す」
「あ、僧侶なのに殺すって言った。リュカ様、さっきみたいに注意して下さいよ」
「今行ったら私が殺されちゃいますって」
「昔からデリカシーのないところ、ほんとに腹立ってた。十年経っても成長してないのね、シャルロ」
「なんで人間の女に気を使わないといけないのさ。どうせ殺すんだから意味ないでしょ?あ、ファリナは別だよ。あの頃からファリナだけは特別だって思ってた」
「さっきまで忘れてたくせに!」
杖の先から迸る黒い閃光がシャルロの胴体を貫く。見た目も声も子供のシャルロに大きな風穴が空くのは、見るに堪えない光景だった。
「うわ…やっちゃったな」
「き、気分が悪いです。ちょっと向こうで風を浴びてきます」
「大丈夫ですかミア様。私も一緒に行きますよ」
リュカに連れられて、肉塊と化したシャルロから離れていくミア。残されたステラとチロルは、燃え盛る森の中に転がるシャルロのそばで互いに顔を見合わせた。
「今のはどっちが悪いと思う?」
「シャルロでしょうね。ファリナお姉さまは美容に気を遣っていらっしゃるのに、あんな失礼なことを言うだなんて、殺されても当然です。チロルだって寿命削られてから、お肌のくすみとか人一倍気にするようになったんで分かりますよ」
「私もそろそろ、そういうの気になるようになるのかなあ」
「返り血を浴びても顔を洗いもしないステラお姉さまが、今更なにを気にするんですか」
「しみ込んだ敵の血は戦士の勲章なんだよ」
「まあステラお姉さまはあんまり年とっても老けないタイプだと思いますから大丈夫ですよ」
ファリナの魔法を食らったら、まず普通の人間では助からない。魔族であっても致命傷か、下手すればそのまま落命することは免れないはずだ。だがステラの予想した通り、シャルロは平気な顔をして立ち上がった。体に空いた風穴はまだ塞がっていないが、よく見ると血の一滴も出ていない。
「相変わらず、カッとなったらすぐに手が出るんだから。昔より怒りっぽくなったんじゃない?」
「口が減らないわね。今度は頭ごと吹き飛ばしてやりましょうか?」
「もー、そんなカリカリしないでよ」
シャルロが地面を蹴り、軽やかな動きでファリナに飛び掛かったが、それは攻撃ではなかった。倍以上の身長があるファリナの腰に手をまわし、子供が親に甘えるみたいに、頭をぐりぐりとこすり付ける。
「久しぶりのファリナの匂い。やっぱ落ち着くなあ」
「うっ…」
怒りで真っ赤になっていたファリナが、途端に脱力する。口元が綻ぶのを必死に抑えようと唇を引き結んでいるが、口角が上がっていくのを隠しきれていない。
「ただいま、ファリナ」
シャルロがそう言った瞬間、ファリナは相手の体をへし折らんばかりの勢いで抱き返した。
「十年もどこ行ってたのよ!馬鹿!」




