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「ファリナお姉さま、少しおいたが過ぎますよ」
チロルお得意の拘束魔法がファリナの動きを封じた。ステラもあの魔法のせいで、どれだけの辱めを受けたことか。まるで体が石になったかのように指先一つ動かせなくなるのだから、食らってしまえば絶体絶命。あとはチロルが満足いくまで体中を弄ばれるという最悪の魔法だ。
「どうです、ミアちゃん。魔法というのはこうして使うのですよ。先輩を見習いなさい。そして褒め讃えるのです」
「チロル、ほんとにその魔法効いてます?」
「なにを言うのですか。チロルは欲望のままに女体を貪るために拘束魔法を極めたのですよ。どんな相手だって、これを食らえば無防備に…」
ファリナの拳がチロルの鳩尾に叩き込まれた。
「ぐぶっ!な、なんで動けるんですか。あり得ない。こんなの認められませんよ!」
「あなた寿命を削って大人になっただけで、実年齢はミアちゃんと同じくらいなんでしょ?私からしたらずぶの素人よ。こっちはその倍以上の年月、魔法とともに歩んできたの。小娘の拘束魔法程度、私が抜け出せないとでも?」
殴られた衝撃で噴き出した胃液を拭いながら、チロルはよろよろと立ち上がる。
「くぅ…油断してましたね。まさかファリナお姉さまがここまで強いとは。お師匠さんが会うのを嫌がるわけです」
「ロメオさんの弟子にしては大したことないわね。ちゃんと魔法教えてもらってるの?どうせあの人のことだから、小金稼ぎばっかりしてるんでしょ。お金じゃ魔法は育たないのよ」
僧侶どうしの仲間割れの次は、チロルとファリナが対峙する羽目になった。どうしてこのパーティーはすぐに対立ばかりするのだろう。
ファリナの注意がチロルに向いたことで解放されたリュカは、脱がされた鎧を着直しつつこちらへ戻ってきた。
「酷い目にあいましたよ…」
「ファリナを殴っても良かったんだぞ?」
「いえ、さすがに手を上げるわけにはいきません」
「そんな事言ってるといつか本当に痛い目にあいかねない。優しいのは結構だが、自分の身を大事にしろよ。もうリュカ一人の体じゃないんだから。な、ミア」
ミアがリュカの腕に抱き着き、拗ねたように口を尖らせる。
「そうですよ。リュカ様はなにかと危なっかしいんですから、もっと自分を大事にしてください。いいですか?次にあのおばさんに襲われたら、私がころ…」
「ミア様。お口が過ぎますよ」
リュカが人差し指を立てて、ミアの口に蓋をした。
「失礼しました。あのおばさんを、私がきちんと叱りつけます」
僧侶が殺すと言いかけたが、聞かなかったことにしよう。
「しかしあの二人、どうするかねえ。あのまま戦わせたら、今度は洞窟どころか辺り一帯が吹き飛ぶぞ」
「止められるのはステラ様しかいませんよ。勇者でしょう」
「そもそも喧嘩の原因は、あの人形遣いとやらのガキだろ?あいつに責任取らせよう」
いまだ四肢を拘束されたままのシャルロは、ファリナの太ももの圧から解放され、ようやく通常の呼吸が戻り始めていた。
「おいファリナ!お前の狙いはこいつだろ。その杖を下ろせ!チロルも!」
今にも特大の魔法をぶつけ合う寸前だった二人が、ステラのほうを向いた。
「…そうだったわね。私としたことが、冷静さを欠いていたわ。ごめんねチロルちゃん。傷つけるつもりは無かったの。お腹大丈夫だった?」
「ええ、今朝飲んだシチューが逆流したくらいですよ」
良かった。妙齢の二人がなんとか矛を収めてくれた。
「で、シャルロとやら。お前はファリナの事を本当に覚えてないのか?」
ステラがシャルロの頬をぺちぺちと叩きながら問う。
「ファリナ…ファリナ…、あっ!名前を聞いて思い出したよ!」
どうやら今の瞬間まで本当に忘れていたらしい。かりにも駆け落ち相手だというのに、薄情なやつだ。
「老けたねえ、ファリナ!すっかりおばさんじゃん!」
まだチロルと戦ってくれていたほうが良かったと思った。被害はステラが危惧したより深刻で、ファリナの怒りの魔法で、辺り一面が焼け野原と化してしまった。




