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ファリナが柄にもなく緊張している。十年ぶりにかつての駆け落ち相手と再会するというのは、やはり気まずいものなのだろう。
「変わってないわね、シャルロ」
心なしか声も震えている。表情こそ平静を保っているが、それもいつまでもつか。
髪と同じ、淡い青色の瞳を丸くして、シャルロはファリナを見上げる。両者の間に訪れる沈黙。
「えっと、どちら様?」
「へ?」
「僕とあなた、面識あったっけ」
ファリナは返す言葉が見つからない様子で、口を開いては閉じてを繰り返している。
「なにこの空気。僕が悪いみたいじゃん。やめてよ」
「…ほんとに覚えてないの?」
「うん」
「じゃあこれで思い出すかしら?」
ファリナは服で隠れていた足を突然露わにして、拘束されて動けないシャルロを太ももで挟んだ。
「むぐっ⁉」
「あなた好きだったでしょ、私の太ももに挟まれるの!」
「んぐぐぐぐ!」
「ほら、思い出した⁉思い出したでしょ!忘れたとは言わせない!」
せっかく治癒魔法で回復させたのに、シャルロが窒息死してしまう。
「う、羨ましい。チロルも挟まれたいのですが!」
止めに入るべきなのだろうが、ファリナの鬼気迫る様子にステラは尻込みしてしまった。自分を忘れた相手に怒りをぶつけるファリナは、近づく者すべてを攻撃しそうな雰囲気がある。
「挟まれたいならチロルが行ってこいよ」
なのでチロルを送り込んでみることにした。
「それでは失礼して…ぐほっ!」
予想通り、ファリナは危険な状態にあった。のこのこ接近していったチロルを魔法で弾き飛ばし、シャルロを挟む太ももにさらに力を入れる。
「止めてきてくださいよ、ステラ様」
「なんで私が。ミアが行けよ」
「今の見たでしょ。吹っ飛ばされるの嫌です」
ファリナがシャルロに乗っかってからもうすぐ三分くらい経とうとしている。相手が魔族だろうと、肺活量が人間より優れている保証はない。酸素を吸って生きているなら、間もなく呼吸が止まってしまう。
「リュカ、行ってこい」
「え、嫌なんですけど」
「ファリナを直接止めてこいってわけじゃない。太ももで挟まれてるあいつをなんとかしてファリナから引き離すだけでいいから。一度ドラゴン状態のファリナを圧倒したんだ。それくらい朝飯前だろ?」
「リュカ様、私からもお願いします」
ミアの頼みとあれば、リュカが断るはずもない。
「もう、分かりましたよ。ファリナ様が暴走したら助太刀してくださいね」
リュカは助走をつけて駆け寄り、もがき苦しむシャルロの脇に素早く手を差し込んだ。一気に引き抜きファリナから救出する手はずだったのだが、太ももの圧が思うよりも強かったらしい。
「ぬ、抜けない!」
「あらあ、リュカちゃん。邪魔するつもりかしら?」
ファリナの標的が一瞬にして変わった。リュカを押し倒し、器用に鎧を脱がしていく。
「今だ、あいつをファリナから引き離すぞ!」
太ももの圧迫から解放されたシャルロの顔は真っ赤だった。本当に窒息寸前だったらしい。
「チロル、そんなとこで倒れてないで、あのおばさん止めてください!」
「ええ、ミアちゃんがやればいいじゃないですか。チロルは今、脳がぐわんぐわんと揺れておりまして」
「私の魔法はまだ未熟だから、さっきみたいに事故になるかもしれないでしょ」
「ふむ、ではチロルが魔法の先輩ということになりますから、それなりの態度でお願いしてくださいよ」
「なっ、こいつ…」
「先輩と呼びなさい、ミアちゃん」
ミアが心底嫌そうな顔をした。半年の付き合いで分かったが、ミアがあの顔をするのは本当に不愉快な時だけだ。
「せっ…」
「んん?」
「せ、せんぱ…」
「ほらほら、早く言わないと。リュカお姉さまが襲われちゃいますよ」
すでにリュカの鎧は脱がされ、ファリナに上からのしかかられて動けなくなっている。
「先輩、助けてください!」
「よく言えましたね、ミアちゃん。ではチロルがぱぱっと解決してあげましょう」
耳の先まで赤くしたミアの頬を、屈辱の涙が伝った。




