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駆け落ち相手。今確かに、ファリナはそう言った。
魔王軍と戦っていた当時のファリナが、現在の年齢から計算して二十代後半。ステラが骨をへし折った相手は姿こそ見えないが、声や体に触れたときの感触から大人でないことは確かだった。
「お前守備範囲広いな。少年相手でもいけるのかよ」
「ちょっと、誤解しないで。相手は魔族だし、年齢的には最低でも百歳は上よ」
ファリナが性に奔放であることは、ロメオから十分に聞かされていた。旅の道中男女問わず手を出し、飽きたらすぐ次の相手に移るので、方々から恨みを買っていたという。結婚を控えた村の娘を口説き落とし、その翌日に別の女と寝たという話もある。勇者一行が立ち寄った場所のいくつかでは、魔物よりもファリナのほうを忌むべき存在として敵視しているらしい。ある意味で生ける伝説だ。
「姿の見えない相手とよく恋に落ちたもんだよ。こいつ透明人間か?」
「いえ、透明魔法で姿を消してるだけよ。付き合ってる時に私が教えたの」
「余計なことを」
「待ってて。魔法を解除してあげるから」
術者本人でなくとも同じ魔法を使える人間なら、シャルロの透明化を解けるらしい。最初に現れたのは、薄い青色の髪。上から下へと、シャルロの全体像が露わになっていく。ステラに骨折させられた痛みで、シャルロは白目をむいて泡を吹いていた。目を覚ましていれば美少年だったはずなのに、もったいない。シャルロに対する第一印象が気絶している姿で固定されてしまった。
こうして見ると、シャルロは想像以上に少年だった。当時のファリナが二十代とはいえ、年齢的に不釣り合いなのは否めない。年の離れた姉弟と言えなくもなかっただろうが、今のファリナと並ぶと、どう見ても親子だ。
ミア、リュカ、チロルの三人が興味深そうにシャルロを取り囲む。
「あらあら、綺麗なお顔ですこと。チロルは女性にしか興味はありませんが、この子には惹かれるものがありますね。そうだ、女装をさせましょう。きっと似合うに違いありません」
「それよりまず、折れた骨をなんとかしてあげたほうがいいのでは?話を聞きだすにも、これじゃまともに喋ることもできないでしょうし」
「私は嫌ですよ。得体のしれない相手の怪我を治すのなんて。おばさんの元恋人なんだったら、責任もって治療してくださいよ」
「言われなくてもそのつもりよ。小娘は黙ってなさい」
復活してまたちょこまかと動かれても困るので、ステラはシャルロの四肢を縛り付けておいた。年端もいかぬ少年を緊縛しているみたいでいい気分ではないが、相手は魔族なので実年齢は相当上だというから問題ない。
ファリナの治癒魔法の効き目はすぐに訪れた。
「ん…、あれ、僕いつの間にか気絶して…」
「おはよう、お目覚めかな?」
「うわぁ!来るな!」
目を覚まして真っ先に飛び込んできたステラの顔を見た途端、シャルロは血相を変えて飛び上がった。いや、正確には飛び上がろうとしただけだ。ぎちぎちに拘束されているので、芋虫のようにうねうねと体をよじっているだけだった。
「ま、また骨を折るつもり⁉」
「落ち着け。お前の怪我はもう治ってるし、下手な事をしなければ危害を加えるつもりはない」
「あ、ほんとだ。痛くない。いや、やっぱ痛い。ロープが食い込んですごい痛い」
「それは我慢しろ。さて、人形遣い。色々聞きたいことはあるが、まずは感動の再会といこうじゃないか。邪魔するつもりはないから、十分に楽しんでくれ」
ステラは後ろに下がり、ファリナに場所を譲った。




