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「あー、いけないんだ。まだその人息あるのに、埋めようとしてる。悪い勇者さんたち!」
老婆のまま復活したヘルガを、用済みとばかりに埋葬しようとしていたステラたち。どうせ瀕死状態なので、放っておいても死ぬ。それなら魔物や動物に食い荒らされないように、地面深くに埋めてやるのがせめてもの弔いだ。そう言って自分たちを正当化しながら土を掘っていた時、幼い子供のような声が聞こえてきた。
「まずい、見つかったか!?」
ステラは周囲を見まわしたが、声の主がどこにいるのか見当がつかない。崩れた洞窟の跡地に隠れる場所は少なく、すぐに見つかりそうなものなのだが。
いがみ合っていた僧侶二人も、ヘルガの生き埋めがバレるとまずいという思いから、示し合わせたように背中合わせになって杖を構え、魔法陣を展開する。抜群のコンビネーションだ。
ステラとリュカも同じく背中を合わせて剣を構える。余ったチロルは、少し離れた場所で体に雷を纏わせ、臨戦態勢を取っていた。
声変わり前の少年を思わせる透き通った声が、ステラの耳元で囁く。
「今度の勇者さんは、可愛いお姉さんなんだね。前の男はビビりでよわよわだったからつまんなかったけど、今回はちょっと楽しめそう」
「どこだ、どこにいる!」
耳元で声はするのに、姿が見えない。
「こっちだよ、勇者のお姉さん」
見えない指が、ステラの額を弾いた。
「いっ…卑怯だぞ、姿を見せろ!」
「やだ」
相手の声は聞こえるし、確かにそこにいる。だがその姿は目には映らず、無暗に剣を振り回しても当たる気配がない。
「えい」
「ひっ!?や、やめ…、はっ、あはは、やめろぉ…」
ステラは脇をくすぐられて身もだえした。
「リュカちゃんの耳といい、このパーティー弱点多くない?」
「それが良いのではないですか。悶えるステラお姉さまは何度見ても飽きません」
「ひ、ひひ…、へんな事言ってないで助け…んぅ…」
「助けたいのは山々ですが、姿が見えないんじゃ仕方がありませんねえ。いやはや、チロルは無念でございます」
「お前っ…見えてても助けないだろ!」
涙を流して身をよじるステラ。見えない何かをステラから引き離そうと、ミアが手当たり次第に宙を叩く。
「こら、どこの誰か知りませんが、ステラ様から離れなさい!」
はたから見れば、ミアが一人でジタバタしている様子はずいぶんと滑稽だった。自分のために必死になっていると分かっていながらも、ステラはくすぐったさとは別に笑いそうになる。
手を振り回すのに疲れたミアは、ぜえぜえと息を吐きながら杖を構えた。
「いっそのことステラ様ごと魔法で撃っていいですか」
「いいわけないだろ!」
「冗談ですよ」
少しかわいいと思ったらすぐにこれだ。
このまま見えない相手にいいように弄ばれるわけにはいかない。視界に捉えられないだけで実体はあるのだから、攻撃できない事はないはずだ。
ステラは全神経を集中させ、相手の息遣い、気配から居場所を特定しようとした。右から左へと声が流れていく。相手が手を振り上げた時のかすかな風の動きを読み…
「捕まえた!」
ステラはついに、見えざる手を掴んだ。
「うわっ、放してよ!」
「放すかバカ!私をこんな目にあわせて、ただで済むと思うな!」
掴んだ腕はとても細く、声から想像する少年のような体そのものだった。だがいくら細かろうが、少年だろうが、容赦するステラではない。
メキッという乾いた音に続き、甲高い悲鳴が上がった。
「ステラ様、もしかして折りました?」
「折った」
ミアが引いている。
「得体のしれない相手の腕を…?」
「悪いか」
「せめて正体掴んでからじゃないですか、そういうの」
「とりあえず折っとけば逃げられないだろ」
腕だけでは心もとないので、相手が人間の姿をしていると仮定して、大体このへんが足だろうという場所を踏みつけた。
一段と高い悲鳴が上がり、それから何も聞こえなくなった。どうやら気を失ったらしい。




