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「…いってぇな。ミア、大丈夫か?」
「ステラ様、まさか私をかばって⁉」
ファリナの魔法で崩れた洞窟は、今やただの岩の塊と化していた。崩落の瞬間、ひときわ大きな岩がミアめがけて落下したのを見て、ステラは反射的に彼女の盾となった。ミアの頭を抱き寄せ、落ちてくる石の塊を背中で受ける。おかげでミアは無傷で済んだようだが、ステラの出血はひどいものだった。
翼を折られた痛みなど分からないとファリナに言ったばかりだが、背骨が折れているかもしれない激痛は、それに近しいダメージに思えた。
「ご、ごめん、ステラちゃん。そんなつもりじゃ無かったの」
ファリナは自らの引き起こした惨事に狼狽している。なにか言い訳をしだす前に、ミアがファリナに掴みかかった。
「なんて事してるんですか、おばさん!」
「おばっ…」
ミアと一回り以上歳が離れているとはいえ、おばさん扱いされた事にファリナは頬をひきつらせた。
「ステラ様までこんな目に遭わせて…。あなたがいるとろくな事になりません。今すぐどこかに消えてください!」
「もともと魔法の打ち合いを始めたのはそっちでしょ」
「洞窟を壊してステラ様に傷つけたのはおばさんでしょうが」
喧嘩両成敗という言葉は彼女たちの辞書にはない。しばらく互いに責任を擦り付け合ったあと、ミアがステラの治療をしてくれた。
「私には防御魔法があるんですから、自分の身は自分で守りますよ。いつまでもか弱い女の子扱いしないでください」
「ほんと立派になったな、ミアは」
「でも、守ってくれてありがとうございます」
少し早口に礼を述べたミアは、話は終わりだというふうに顔を背けた。
「どうだファリナ。可愛いだろ、うちのミアは」
「ええ。ちょっと撫でさせてもらっていい?」
ファリナが差し出した手を、ミアが力強く弾いた。
「触るな、おばさん。臭いが移ります」
完全にファリナに対して心を閉ざしている。まあそれも無理はないことだ。目の前でリュカを弄ばれ、ステラに怪我を負わせたのだから、恨んでも仕方ないだろう。
「こ、これだから最近の若い子は可愛くないのよ」
「あなたに可愛いと思われなくて結構です。あと私、普通に可愛いですから」
これまでのミアなら、心ではそう思っていても口に出すことは無かったはずだ。神の力を借りた魔法を習得したことで、気分が高揚しているせいかもしれない。
年下の小娘に言い負かされたファリナは、それ以上なにも言えず、悔しそうに口を噤んだ。
「そうだ、リュカ様は?」
「あいつならまあ大丈夫だろ。岩が当たったくらいで死なん」
ステラの思った通り、リュカは避けるなり斬るなりして、降ってきたすべての岩に対処していた。
「ミア様、先ほどはお恥ずかしい姿を見せてしまい…」
「いえ、悪いのはあいつらですから」
あいつらの片割れであるチロルはというと、ちゃっかり自分の身は魔法で守っていた。なにはともあれ、全員無事だ。結果的にステラだけが怪我を負ったことになる。
そのチロルが、ステラの背後を指さして愕然としている。
「あ…まずいですよ、これは。非常にまずいです」
「なにが」
「ステラお姉さま、後ろをご覧ください。伝説の戦士さんの封印が!」
ヘルガを閉じ込めていた紅水晶が、粉々に砕けていた。しかしそれは、エテルノクスによるものではない。先ほどの僧侶どうしの喧嘩でファリナが放った大規模な魔法が、ほとんど解けかけていた封印に最後の一撃を与えてしまったようだ。
エテルノクスによって封印を解かないと、ヘルガを全盛期の姿で甦らせることはできないとファリナは言っていた。だからこそ、不本意ながらファリナと疑似恋愛をしたり、ミアたちを騙して愛の魔法を発動させたのだ。
しかしその努力は水泡に帰してしまった。




