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ステラの頭上を、ミアの魔法が掠めていった。直接当たっていないのに、頭皮がじりじりと熱くなる。
「落ち着けミア!むかつくのは分かる、あいつらやりすぎだもんな!でも一応あれでも仲間だから、殺意を向けるのは止めてやってくれないか!」
そもそもなんだこの魔法は。僧侶のミアが使えるのは治癒魔法と防御魔法だけのはず。攻撃魔法を持たないミアの唯一の武器は、以前に購入した鞭だけだった。鞭で獣人姿のリュカを調教したものだから、あれ以来一度も姿を現さなくなった。
ミアの怒りに火をつけた二人は、三十歳を超えて衰え始めた体力を振り絞り、全力で逃げている。
魔法陣が今度は洞窟の天井に出現した。その真下にいたチロルは、頭上に現れた光を見上げて悲鳴を上げた。
「ミアちゃん、ごめんなさい!悪気は無かったんです!あったのは下心だけ、信じてください!」
こんなに下手な命乞いを聞くのは初めてだ。
魔法陣から放たれた光線をすんでのところで避け、チロルはゴロゴロ転がって壁に激突した。チロルはそのまま死んだふりを決め込むことにしたらしい。わざとらしく呻いたあと、がっくりと脱力して目を閉じた。だが杖を握る手には微妙に力が入っており、よく見ると薄目を開けている。反撃準備だけはしっかり整えているのは、さすがロメオの弟子である。
ミアの次なる標的はファリナだった。どちらかというとファリナのほうがリュカを執拗に責めていたので、それだけミアの恨みを買っている。怒りの度合が魔力に影響するのか、魔法陣が一気に二つ、壁と地面に浮き上がった。
「ちょ、マジ⁉それは反則だって!」
横に逃げても上に逃げても、ミアの射程範囲から外れることはできない。追い詰められたファリナは、「ああもう!」と叫ぶと、杖を顔の前で持ち、呪文のようなものを唱えた。
ミアが生み出した光の魔法陣の対面に、どす黒い色の魔法陣が出現する。まるで光と闇。術者が違えば魔法の質も変わるらしいが、やはりファリナは魔王側に付いていただけあって、闇の側面が強いのかもしれない。
二つの魔法がぶつかり合い、相殺された。凄まじい衝撃波に吹き飛ばされそうになり、ステラは剣を地面に突き刺してなんとか耐える。まだ半ば意識を失っている状態のリュカは、抵抗する間もなく吹き飛んでいった。まあリュカは頑丈だし、あとで回収すればいい。
死んだフリを決め込むチロルの傍に駆け寄り、ステラは耳元で囁く。
「なんだよあれ。ミアにあんな力が?」
「チロルは死体です。話しかけないで下さいませ」
「質問に答えてから死ね。あの魔法はなんだ」
チロルはむくりと体を起こした。
「チロルも詳しくはありませんが、あれは聖なる裁きというやつですね。僧侶だけが持つ魔法の一種で、神の御言葉を詠唱して魔法に変えるのだとか。けど熟練の僧侶でないと使えないはずですよ。こう言っちゃなんですが、ミアちゃんにそこまでの力はないはず」
「リュカを弄ばれた怒りで、眠ってた力が爆発したんじゃないか?」
「ふーむ、その可能性は否定できませんね」
だとしたらチロルたちのせいだ。責任持ってミアの暴走を収めてもらわないと。
「さっきミアがブツブツ言ってたのは、聖書の一節を詠唱してたのか」
「よく覚えてるもんですよ。チロルも教養の一環として読んだことはありますが、五分で飽きましたね。神よりも女体を崇めておりますがゆえ」
チロルの頬をミアの魔法が掠めた。
「ぎゃあ⁉」
チロルの頬に一筋の血が流れ出る。
「ま、まだチロルを狙ってるんですか!」
「流れ弾だろ」
「あれを止めるのは、チロルには荷が重すぎます。同じ魔法を持つファリナお姉さまにしか対抗できません。チロルは再び死んだふりを続けますので、終わったら起こしてください」
僧侶と僧侶の魔法対決。些細なことから始まった仲間割れが、手の付けられない事態に発展してしまった。




