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「さっきは散々な目にあわせてくれましたねえ、リュカお姉さま?」
魔法で動きを封じられたリュカは、手を体の横にして直立姿勢のまま固まっている。抵抗できないリュカの隣に立ったチロルが、生ぬるい吐息をリュカの右耳に吹きかけた。
「んっ、ぅぅ…。ち、チロルさん、離れてください!」
「左ががら空きよ、リュカちゃん」
チロルとは反対側にファリナが立ち、同じように吐息を吹きかけた。
「やっ…ぁ…」
「これはチロルの目の分」
「そしてこれは私の翼の分の仕返しよ」
成熟した魔法使い二人が、うら若き女戦士の両耳をじっとりと責める光景に、ステラは固唾をのんだ。チロルは封印を解くためのアイデアを思いついたと言っていたが、これのどこがいい考えなのだろう。リュカの悶える姿を楽しんでいるだけではないか。
先ほどドラゴンと戦った時のリュカの強さは人間離れしていた。ステラが全力で挑んでも返り討ちにあうに違いない。だが今のリュカは、甘い声を漏らしながら体を震わせているだけの、か弱い女の子だった。
「どうですかリュカお姉さま。脳みそまでとろけそうな感覚でしょう?いいんですよ、抵抗しなくても」
「欲望に素直になりなさい、リュカちゃん。ふふ、よだれが垂れてるわよ」
この二人、一体なにが目的なんだ。よりにもよってミアの前で。眼球と翼を傷つけられた報復にしてはやりすぎだ。
「おい、そのへんにしとけよ。騙すみたいな作戦を立てた私たちにも非があるんだし」
リュカの耳に舌を突っ込んでいたファリナを止めようとすると、舌を出したまま彼女が振り向いた。
「これはチロルちゃんの作戦よ。封印解除まであと一歩。最後のエテルノクスを発動させるには、こうするのが一番なの」
「それとリュカの耳を舐めるのに一体なんの関係があるんだ」
「いいから見てなさい」
それだけ言うと、ファリナの舌はまたリュカの耳の中へ戻っていった。
リュカの目は、もう焦点を結んでいない。ぎりぎり意識だけは保っているが、魔法で一切の抵抗を封じられたうえで、弱点を集中的に責められているのだ。そこには勇敢で凛々しい戦士の面影などなかった。
後ろを振り向くのが怖い。なんといっても、ステラの背後にはミアがいる。恋人を目の前で弄ばれて、ミアが黙っているわけがない。最悪の場合、血を見る羽目になる可能性もある。仮にチロルとファリナの死体が転がることになっても、同情できるかと聞かれれば微妙だ。
「あらあら、リュカお姉さま。泣いておられるではないですか。それは何の涙ですか。恥辱か屈辱か、それとも…」
ファリナがリュカの頬を伝う涙を舐め取り、「甘じょっぱい」と感想を述べた。
それが引き金となり、ミアがゆらりと一歩踏み出した。顔を俯け、ぼそぼそと何かを呟いている。魔法が使えないステラでも、ミアから発せられる魔力が空間を歪ませているのが分かった。
「ミア?な、なんかやばい事しようとしてないか?」
反応がない。ステラの声は聞こえていないのだろうか。
「これはまずいわ!」
ファリナはリュカの耳から口を離し、まだ堪能している最中だったチロルを無理やり引きはがした。
「やりすぎちゃったみたいね」
「ファリナお姉さま、チロルも感じますよ。我々は今、とんでもなく危機的な状況です。リュカお姉さまを目の前で寝取って、ミアちゃんの独占欲を爆発させてエテルノクスを…って作戦だったのですが、どうやら事態は想定外の方向へ進んでおります」
「そんな作戦だったのかよ。ろくでもねえな、お前のアイデアは」
今後チロルの発案はすべて却下することにしよう。
「ミアは今どうなってるんだ。なんか普通じゃないのは分かるんだけど」
「説明はあとでするわ。ミアちゃんの狙いは私たち二人。今すぐ逃げないと…」
洞窟の壁に光の魔法陣が浮き上がり、その中心部から放たれた光線が反対側の壁を貫いた。
「か、壁が…。今のミアの魔法か?」
ファリナにそう尋ねたが、あの二人はすたこらと逃げているところだった。




