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「翼を切り裂かれる痛み、ステラちゃんに分かる?」
「分かんない」
「でしょうね!あれ本当に痛いんだから!ドラゴンに変身したのは初めてだったから、翼に神経が通ってるなんて思わなかったわ。ただの飾りみたいなものだとばかり」
ファリナはしきりに背骨のあたりを擦りながら、ステラに対して恨み節を言ってくる。ドラゴンになれとステラが指示したわけでもないのに、責任の押し付けもいいところだ。
「なーにをごちゃごちゃ言ってんですか、翼くらいで。こっちは目ですよ、目!ほら見てくださいステラお姉さま。チロルの右目、まだ充血してるでしょう!?」
「うわ、真っ赤じゃん。ファリナに治癒してもらってないのか?」
「そのファリナお姉さまが手負いですから、治癒魔法も不完全なんですよ。」
「ああ…」
片や翼を裂かれたドラゴン。片や片眼を潰されたドラゴン。ミアをちょっとしたピンチに陥らせるはずが、二人の魔法使いが深刻なダメージを負う羽目になった。
「リュカが強いのは知ってたが、まさか二匹を相手に圧倒するとは思わなかったんだよ。頼もしい仲間を持って、私は嬉しいがな」
「チロルだってリュカお姉さまの実力は認めてますよ。だけどあれ、異常じゃないですか?人間のそれじゃないですって」
「ミアが絡むと実力以上の力を発揮するみたいだな。愛ってのは偉大だ」
「こんなの不公平よ。ステラちゃんもしなさいよ。大怪我」
「何てこと言うんだ。お前は散々駆け落ちとか悪いことやってきたんだから、その報いを受けたと思え」
チロルとファリナが本来の魔法で戦っていれば、さすがにリュカといえど分が悪かったに違いない。だが二人は人間であり、ドラゴンとして戦うのには慣れていない。手加減をしていたとはいえ、惨敗したことに魔法使いたちのプライドは傷つけられたらしい。
「これはあとで仕返ししないといけませんねえ。リュカお姉さまは耳がすこぶる弱いんです。狙うならそこですよ、ファリナお姉さま」
「よし、二人で両耳を責めましょう」
「こら、変な気を起こすんじゃない。作戦は成功したわけだし、いいじゃないか。すごい量のエテルノクスが発動したのを見ただろ?」
「あれは想像以上だったわね。もしかしてヘルガの封印、もう解けたんじゃない?」
「見に行ってみましょう。もし封印が解かれているなら急がないと。ヘルガさんとやらを魔王は恐れているみたいですし、先手を打って始末されたら困りますよ」
「始末されてるならまだマシよ。魔法で洗脳するなりして、向こうの手駒にでもされてみなさい。状況は絶望的だわ」
なにやらファリナが不安をあおるような事を言うので、ステラも気が気ではなくなってきた。急いでヘルガが封印されている洞窟へ向かわないと。
「あの二人はどうしますか?一緒に連れていきます?」
「もう作戦は終わったし、封印の件も話していいわ。あ、でもロメオさんにだけは内緒ね。あの人私のことまったく信用してないし、絶対に邪魔してくると思うから」
信用を失ったのはファリナ自身の行いのせいだと思うが、まるで一方的にロメオに嫌われているとでも言いたげだ。
「なら私は二人を呼んでくるよ」
そろそろ熱い抱擁も終わった頃だろう。そう思ってミアとリュカのもとへ戻ったが、なんとまだ二人は密着していた。
「げ、まだやってんのかよ」
ステラの気配に気づいたミアが、一瞬顔をこちらへ向けた。彼女の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっており、とても恋人に見せられるものではない。幸い抱き合っているので、リュカからはミアの顔が見えていなかった。
「お楽しみのところ申し訳ないが、急ぎで向かわないといけない場所がある。説明は歩きながらするから、とりあえず準備してくれないか」
「分かりました。行きましょう、ミア様」
リュカが名残惜しそうに、ミアの腕を解いた。
「あっ、ちょっと、ダメです、リュカ様!」
ミアが両手で顔を覆った。
「あの、今、顔すごいことになってて…」
恋人が泣き腫らした時の正解が、ステラには分からない。生前のカリンと交際していた時、ステラはもっぱら泣く側だったからだ。ステラが落ち込んでいると、カリンは豪快に笑い飛ばし、泣いていたのが馬鹿らしくなるような気分にさせてくれたものだ。
しかしリュカは笑い声などあげなかった。ミアの頬を伝う涙を指で拭い、震えるミアの唇にそっと自分の唇を重ねた。
なるほど、これが正解なのか。
早く、と急かしてくるファリナを手で制して、もう少しだけ二人の時間を堪能させることにした。




