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目の前で吠える二体のドラゴンは、チロルとファリナが魔法で変身した姿だった。事前の打ち合わせではドラゴンに変身するとしか聞いてなかったので、どっちがどっちかは知らない。白いほうの目元がチロルに似ているような気もするが、ふとした仕草は黒いのほうのドラゴンのほうがチロルっぽい。だとすれば白いほうがファリナか。あらかじめ色まで聞いておけばよかった。
「ステラ様、これが討伐依頼の魔物ですか⁉」
ドラゴンの咆哮が響きわたる中で、ミアが必死に声を張り上げる。
「聞いてた話と全然違う!こんなやつらだと知ってたら、依頼なんて受けなかったさ!」
ステラも喉が裂けそうになるくらいに叫び返した。ここからはステラの演技力が試される。ドラゴンの正体が魔法使い二人だとばれてはいけない。
白いドラゴンが肺を膨らませて、いかにもこれから火を吐くぞという予備動作を行った。
そんな分かりやすい行動を見逃すミアではない。
「ステラ様、私のそばに!」
言われた通り、ステラはミアの隣に滑り込んだ。右にはリュカ、左にはステラ。その中心にミアが立つ。
ドラゴンが火を吐くのと同時に、ミアは防御魔法を展開した。海底での戦いで見せたものよりも強固で範囲も広い。ミアの魔法も日々進歩しているのだと思うと、子供の成長を喜ぶ親のような気分にさせられる。
「立派になったなあ、ミアは」
「なに頭撫でてるんですか。状況分かってます⁉」
どう見ても危機的な状況だ。ドラゴンの火は、さすがに容赦しているとはいえ威力が強い。防御魔法で守られてはいるものの、ミア一人で対抗できる時間は限られているだろう。相手に殺意が無い事を分かっているから余裕を持てるが、作戦だと知らないミアとリュカの焦りは相当なものだ。
炎を吐き切ったドラゴンはのしのしと後ろに下がり、黒いほうにバトンタッチした。役目を終えたとばかりに、体を丸めてリラックスしている。やはり白いほうがチロルの気がする。
黒いドラゴンは羽を羽ばたかせ、突風を巻き起こした。防御魔法では物理攻撃は防げても、術者のミア自身が飛ばされたら対処のしようがない。球体に展開された防御魔法ごと、三人は宙に弾き飛ばされた。
「ふぎゃっ!」
なんとか魔法は維持しながらも、地面に叩きつけられたミアが膝を抑えた。
「ミア様、膝を擦りむいてますよ!ああ大変だ、早く治さないと!」
一度心臓を貫かれて死んだのだから、今更擦りむいたくらいでなんだ。リュカはあまりに過保護すぎる。
「大丈夫です、これくらい。痛くもなんともありません」
怪我をした本人のほうがいたって冷静だ。治癒魔法で擦りむいた箇所を瞬時に治して立ち上がる。
やりすぎた?と聞いているように、黒いドラゴンが首をかしげた。
ステラはさり気なく手を振って、大丈夫だと伝えた。もっとピンチに陥らせないと、作戦が意味をなさない。
「どうしますかステラ様。逃げるのが得策だと思いますけど、隠れる場所もないこの平原で、二体相手に逃げ切れるかどうか…」
真正面から戦うことを避けるのがミアの作戦のようだ。実際の戦闘なら戦略的撤退としてステラも受け入れただろう。しかし今回ばかりは逃げるわけにはいかない。二人には戦ってもらわないと。
「相手は空も飛べるんだし、逃げようったってそうはいかんだろう。私が白いほうを引き付けるから、リュカは黒いほうを倒してくれ。ミアはリュカのサポートを頼む」
「分かりました。ステラ様もお気をつけて」
リュカの剣を握る手に力が入った。頼りないし面倒くさいところも多いが、リュカの戦闘能力には確かな信頼を置いている。相手がドラゴンだろうが、その気になれば剣一本で倒せるはずだ。だが本気で殺しにかかられても困るので、うまくミアだけを狙ってピンチを演出しなくてはいけない。
ステラは丸くなってあくびをしている白いドラゴンに近づき、体を蹴った。
「おい、お前はチロルか?」
変身状態では人の言葉を話せないようだ。その代わりにドラゴンはまたばきで返事をした。
「ってことは、あっちの黒いのがファリナだな。今リュカとファリナが戦ってる。ミアを狙うなら今のうちだぞ」
チロルがのっそりとした動きで体を起こした。




