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「魔物の討伐依頼ですか。最近変なことばかりに巻き込まれてましたから、なんだか久々ですね。ちゃんとした仕事をするのって」
依頼を受けたという話はまるで嘘なのだが、ミアはすっかり騙されている。仲間を欺くようで気が進まない気持ちを抑えながら、ステラは続けた。
「チロルは別件で出かけてるから、私たち三人だけで討伐に向かう。依頼主の話を聞くかぎり大した相手じゃないみたいだが、あまり気を抜くなよ。特にリュカ」
「わ、私ですか?」
「ミアにうつつを抜かして鍛錬を怠けてるんじゃないだろうな」
「まさかそんな。ミア様をお守りするため、常に戦う準備は万全にしてあります」
「ならいい。準備ができたら出発だ」
これはファリナが主導で立てた作戦だった。まずミアをピンチに陥らせる。そこをリュカが華麗に助けることで格好いい姿を見せ、二人の愛を燃え上がらせる。それを利用してエテルノクスの発動を誘発しようというのだ。
作戦内容を知っているのは、ステラとファリナ、チロルの三人だけ。この三人がグルになり、ヘルガの封印を解くために動き始めていた。
もちろん討伐対象の魔物なんていない。ステラがミアたちを連れてきたのは、何もない広大な平原だ。ここならいくら暴れても被害は出ないだろう。
「あの、ステラ様。なにもいないんですけど。ほんとにここで合ってます?」
責めるような口調でステラに詰め寄るミア。無駄足を踏まされたと怒っているのがありありと伝わってくる。
「私たちが到着する前に、誰かほかの人が討伐してしまったとか?」
リュカもリュカで、見当違いの想像をしている。本当のことが言えないのがもどかしい。
「それだとしたら失礼な依頼人ですね。どこの誰ですか。帰って文句言ってやります!」
ミアが頬を膨らませて地団太を踏んだ。これが作戦のための嘘ではなく本当に存在する依頼人だったなら、ミアは間違いなく殴りこみに行っていただろう。
事前の打ち合わせでは、ミアをピンチに陥らせるために、間もなくファリナとチロルがやって来る。だが生身の姿ではない。魔法使いである彼女たちにしか出来ない、ある演出を伴って現れる。
平原の空が突然暗くなり、雷鳴が轟いた。
「うわ、雨だ。どこか雨宿りできそうな場所は…」
ミアはあたりを見まわしているが、木の一本すら生えていないこの場所では、雨風を凌ぐ手段がない。
「お体を冷やしては風邪をひきますよ。ミア様、こちらへ」
リュカが毛布でミアを包み、その小さな体を抱き寄せた。雨がやむまでそうしているつもりなのだろうか。屋根のある場所までミアを抱えて走ったほうが早そうな気もするが、密着できてミアも嬉しそうなので、ステラはあえて何も言わなかった。
「リュカ、私も濡れてるんだけど」
「ステラ様は風邪をひかないと思うので」
「どういうことだ貴様」
ミアと一緒にいる時間が長くなったせいか、リュカの言動が少しづつミアに似てきていた。最初は慕ってくれていたのに、徐々にステラへの対応が雑になっている気がする。だがミアと違うところは、一喝すればすぐに萎縮するところだ。
しかし今やるべきは、リュカに立場を分からせることじゃない。嵐が来たということは、あの二人が近づいてきている証拠だ。
空が割れるような音とともに、稲妻が平原の地面を焦がした。
「な、なんですかあれ⁉」
リュカに抱き着いたまま、ミアが叫んだ。
二体の巨大なドラゴンが雲の間から現れ、ステラたちの前に着地した。片方は全身を白の鱗に。もう片方は、黒の鱗に覆われている。色彩が対になったドラゴンが、耳をつんざく咆哮を上げた。
「頼むぞ、チロル、ファリナ」
ミアたちに聞こえないように、ステラは小さく二体のドラゴンに囁いた。轟音の中で聞こえたかどうか分からないが、ドラゴンはこちらを見て頷いたように見えた。




