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ミアたちが起きだす前に宿へ戻ったが、二度寝する気にはなれなかった。伝説の戦士とやらを復活させるためとはいえ、これからファリナと疑似恋愛をしなくてはいけないなんて、考えるだけで寒気がする。もしカリンの霊がここにいれば、さぞかし苦い顔をしていることだろう。
「はぁぁ…」
「なによ、さっきからため息ばっかり」
「気が重いよ。好きでもない相手と、演技とはいえ付き合うとかさ」
「私だって乗り気じゃないんだからね。ヘルガの力を借りないと、魔王軍と渡り合えないからしょうがなくよ」
「ヘルガ以外にいないのかよ。もっと扱いやすそうな戦士か魔法使いは」
「あいにくみんな死んだわ。ロメオさんレベルの魔法使いも探せばいるかもしれないけど、さっきも言ったようにちんたらしてる暇はない。時は一刻を争うの」
ステラがぶーぶーと文句を垂れている間に、ミアが眠たそうに目をこすりながら降りてきた。
「ふぁ…おはようございます。ステラ様が私より先に起きてるなんて珍しいですね」
続いて降りてきたリュカも、ほとんど同じことを言った。基本的にステラは叩き起こされるまで寝ているので、たまに早起きすると毎度のように驚かれる。今朝は早起きというか、寝てないだけだが。
「チロルとロメオは?」
「チロルはまだ寝てます。ロメオ様は…、そういえば見てませんね。どこ行ったんでしょう」
リュカが淹れたホットミルクを飲んだミアは、ほぅっと一息ついた。
ステラとファリナは先に朝食を食べ始めていた。ステラはすでにあらかた食べ終えており、皿の上には食べかすが散乱している。どうしてもっと綺麗に食べられないんだと、ミアからよく小言を言われるが、食事作法なんてそう簡単に改善するものでもあるまい。
「ステラちゃん、こっち向いて」
「ん?」
「口にソースついてるわよ」
ファリナがステラに顔を近づけ、そして口についたソースを舐めた。
「がふっ…!」
ミアがホットミルクを吐き出した。ちょうどいい温さ加減で淹れられた白い液体がテーブルに広がる。
「な…なにをやって…え?なんですか、どうしたんですか!」
ミアが狼狽するのは無理もない。疑似恋愛をしている事は二人だけの秘密だと、ファリナから釘を刺されている。ヘルガ復活の件は、周りに、特にロメオにだけは知られたくないようだ。理由を聞いても教えてくれないが、ロメオだけに隠し通すのは難しいので、この際全員に黙っておこうという話になっている。
「ほんと、どうしたんだろうな」
説明できないのがもどかしい。ステラはすでに限界を迎えかけていたが、ファリナは余裕そうだ。乗り気でないと言いながら、年下を手玉に取るなど造作もないのだろう。それに加えて、ミアたちの反応を楽しんでいる節さえある。
「もう、ステラちゃん。いっぱい食べかすこぼしちゃって。まるでお子様みたい」
ステラの膝の上に手を這わせるファリナ。食べかすを払うだけにしては、触っている時間が長すぎる。
「ファリナ様、こんな朝早くからそれは…。ミア様も見てるんですよ!」
リュカが顔を赤くしながら立ち上がった。
ステラの肩に顔を押し付けて、ファリナがくつくつと笑っている。
「ダメだ、これ面白いかも。ヘルガの封印解くために始めただけなのに、なんかはまっちゃいそう」
「私はちっとも面白くねえよ。離れろ、暑苦しい」
身をよじって逃れようとしても、ファリナはべったりとくっ付いてくる。それを見つめるミアの目が、どんどん死んでいくのが分かった。




