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 ステラに躊躇はなかった。ミアの姿をしたオルタナの腹に剣を突き立てると、頼りない小さな体に風穴が空いた。


 「おぉ…容赦ないですね、ステラ様」


 「ステラ様と呼ぶのをやめろ。白々しい」


 腹から血を流しながら、オルタナはころころと鈴の音のような声で笑う。


 「これ、本人が食らったら即死ですよ。なんですかこの体。まるで筋肉がついてない。最近の子ってこんなひょろひょろなんですか。人間も弱くなりましたねえ」


 どうやら痛みは感じていないらしい。まるで普段のミアと話してるような錯覚に陥ってしまう。


 「それ以上無駄口を叩くな!」


 ステラは突き刺した剣を振り上げ、オルタナの体を真っ二つに引き裂いた。ころんと転がり落ちた眼球は、時には酔ったステラを軽蔑の眼差しで。時にはリュカに熱い視線を送っているミアの目だ。


 「うえ…えげつないことしますね。痛くはないですけど、あまりいい気分じゃありません」


 肉体を裂かれてもなお、オルタナの声はどこからか発せられている。


 「なんだこいつ、不死身かよ…」


 「そう簡単に倒せると思ったら大間違いですよ。あなたの恋人も、そうやって高をくくってたから殺されたんです。それじゃ、お次は…」


 オルタナが再び黒い霧に包まれた。


 「ひとつお手合わせ願えますか、ステラ様」


 現れたのはリュカだった。


 「ふむ、なかなかいいですね、この人の体は。しかし最初見た時はビックリでした。男かと思いましたよ。世の中にはいるんですね。男よりもかっこいい顔の女の人」


 リュカ本人なら絶対にしない自画自賛だ。オルタナはリュカの体が気に入ったらしく、軽々と剣を振り回しては満足げに頷いている。


 「でもやっぱり女だ。意外と胸もあるし」


 鎧の下に手を入れて、胸の感触を確かめるオルタナ。マダム・シスルとの戦いでドレスに着替えた際、無駄にいいスタイルを見せつけられたことを思い出した。


 「さて、せっかくですし、剣での勝負といきましょうか」


 「かかってくるがいい。インチキ戦士め」


 ステラとオルタナの剣がぶつかり、火花を散らした。


 「くっ…重たい…」


 「おお、すごいですよ、この体!これまでいろんな人に擬態してきましたが、最高の使い心地です!」


 口を大きく開けてのけ反って笑う姿は、リュカの顔に似合わない。


 「どうしました、ステラ様!反撃してこないんですか?」


 オルタナの斬撃は、一撃一撃が鉄の塊で殴られているかのように重たい。リュカ本人の腕力では、ここまでの威力は出ないだろう。正攻法でやりあっても、防戦一方になるだけだ。ならば、リュカの弱点を攻めるまでだ。


 「ほらほら、逃げてばっかりじゃ勝負になりませんよ!…ひゃぅっ!?」


 ステラはオルタナの背後に素早く回り込み、耳を噛んだ。


 「ちょ、それ…ダメ…。んふっ…な、なんですかこの体。耳が…耳がこんなに弱いなんて…」


 リュカは耳がめっぽう弱い。オルタナの擬態は、本人の弱点もしっかりとコピーしていたようだ。


 「情けない声出しやがって。それでも誇り高き戦士か!」


 「そ、それは本人に言ってくださ…くふぅぅ…」


 相手がオルタナなのでステラも大胆になれる。リュカの耳に舌を入れて、ねっとりと舐め回した。事情を知らないミアがこの場面を目撃すれば、卒倒することは間違いない。


 オルタナの頬が紅潮し、首筋に汗が浮かび始めた。


 「す、ストップ。ほんと無理です。こんなの勇者の戦い方じゃな…んっ…は、恥ずかしくないんですか、卑劣な…ぁ…ぅ…」


 「卑劣はどっちだ、この悪魔め!」


 逃げられないように羽交い締めにすると、リュカの痙攣が直に伝わってくる。


 卑劣な勇者と卑劣な魔物、どっちもどっちの不毛な戦いは、仲間の弱点を熟知していたステラに有利に働いた。


 「や、やめろって、言ってるでしょうが!」


 身悶えしていたオルタナが、ギリギリ残っていた理性をふり絞ってステラを突き飛ばした。


 「はぁ…はぁ…、まったく、どういうつもりですか。こっちも長いこと魔王様の配下をやらせてもらってますけど、こんな戦い初めてですよ」


 「いい声で鳴くじゃないか。人間から辱めを受ける気分はどうだ?」


 「はっきり言って最悪ですね。人間なんてやっぱり醜い。恋人を殺されたというのに、直後に別の女と絡み合うなんて」


 「う、うるさい!不可抗力だ!」


 「ではこれも、不可抗力ということで」


 リュカの顔が歪み、再びカリンへと姿が変わった。オルタナがステラの両腕を掴み、洞窟の壁に押し付ける。


 「んっ!?」


 もうこの世にいないはずのカリン。その唇が、ステラのものと重なった。先ほどの仕返しとばかりに、ステラの口内を舐めまわしてくる。口蓋から歯の裏側まで、人よりも少し長いカリンの舌が這ってきた。


 「おい、お前こそ情けない顔になってるぞ。そんなんで勇者が務まるのか?」


 相手がカリンで無いことは頭では理解しているが、絡められた舌の暖かさに、ステラはとろけそうになった。


 唾液が糸を引きながら二人の口が離れるころには、勝ち誇った顔のカリンに見下されていた。



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