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 「安心しろ。そう深く刺しちゃいねえよ。殺すつもりならバッサリ首斬ってるっての」


 ナイフが引き抜かれ、皮膚に空いた穴から血があふれ出した。赤く染まった切っ先をステラに向け、カリンは歯をむき出して笑った。


 「ちょっと大人しくしてもらうだけだ。てかお前さあ、そんなくらいで大げさに痛がるなよ。あの二人といる間に鈍っちまったのか?」


 「なに…これ…、なんで、カリン…」


 「カリン、カリンってうっせえな。そんなにこの女が好きなのか」


 この女。カリンは確かにそう言った。まるで別のだれかの話をしているような言い方だ。


 「詳しい話はあとで聞かせてやる。ま、嫌でも知ることになるさ」


 カリンのステラの頭を掴み、膝蹴りを食らわせた。額が割れるように痛い。なぜカリンに暴行を受けているのか。何も理解できないまま、ステラは地面に倒れ伏せた。


 「おーい、まだ起きてるか?気絶してくれたほうが運びやすいんだけど」


 「…こんなの、カリンじゃ、ない」


 「しぶといな。じゃ、もう一発いっとくか」


 髪を掴まれ、頭皮が引っ張られる痛みにステラは悲鳴を上げた。背中を向けて歩き出していたミアとリュカが、初めて聞くステラの絶叫に振り向く。


 「な、何を⁉ステラ様を放して、この野獣!」


 踵を返し、ステラへ駆け寄ろうとするミア。それよりも速く、リュカがカリンに殴りかかったが、繰り出された拳は片手で受け止められてしまった。


 「あなた、そういう趣味の人だったんですか!ステラ様を傷つけて支配しようと…」


 「んなことしなくても、ステラは私の言うことならなんでも聞く。まったく、なんだよお前ら。さっきステラに愛想尽かしてたじゃねえか。もうこいつは私が好きにしていいんだろ?」


 髪をさらに強く引っ張られ、ステラの体が浮いた。


 「あああああぁ!」


 「確かにステラ様がミア様にしたことは許せませんが、それとこれとは別です!」


 リュカの蹴りがカリンの側頭部に当たったが、まるでびくともしていない。


 「お前はほんとに弱っちいな。ステラが認めるくらいだからどんなもんかと思ったが、期待外れもいいとこだ。その騎士団とやらにも、顔がいいだけで採用されたんじゃないか?」


 カリンが掴んでいた髪を放し、自由になった手でリュカの首を締め上げた。


 「あ…ぐっ…」


 「こ、このケダモノ!あっち行けバカ!」


 リュカを締め上げる幹のように太い腕に、ミアが飛びつく。親にじゃれつく子供のようにしか見えないが、ミアは必死の形相で叫んでいる。


 「ちっこいの、教えといてやるよ。勝てない相手に挑むのは勇気じゃない。命の無駄遣いだ。私が本気なら、お前なんてとっくに死んでるぞ」


 カリンはリュカを放り投げ、つまらなそうにミアを蹴った。


 「お、折れた。どこかしらの骨が、最低でも二、三本…」

 

 ミアは必要以上に被害者面をするのが上手い。おそらく一本も折れていないが、全身を複雑骨折させられたような痛がり方を見せている。だがそんな演技が今のカリンに通じるはずもない。


 「ステラはもう私のもんなんだから、口出しすんなよ。ステラを捨てたのはお前らの意思なんだ。それじゃ、私はこれからステラとお愉しみがあるんで、失礼する」


 「待て!」


 リュカが伸ばした腕は、虚しく空をかいた。


 カリンはステラを乱暴に抱きかかえたまま、黒い煙となって消えていった。

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