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 二日酔いのステラを待っていたのは、眉間にしわを寄せた三人だった。間もなくステラから下される決断に、緊張感を隠しきれていない。ミアたちとの旅を続けるのか。それともカリンのもとへ戻るのか。考えるために与えられた一日という猶予は、とても短い時間だった。

 

 「…おはようステラ。なんか顔色悪いな」

 

 こんなに固くなっているカリンの声を聞くのは初めてだ。


 「答えは決まったんですか。ステラ様」


 昨晩とは打って変わって、ミアは沈痛な面持ちだ。


 「うん、一晩考えて、私の中で答えが出たよ」

 

 リュカが固唾を飲む音が聞こえた。

 

 「どちらかを選ぶなんて、本当はしたくない。だけど、もう優柔不断な自分でいたくないんだ。私は…、私は…」


 ステラはゆっくりと全員を見回し、最後にカリンと目線を合わせた。見つめ返してくるカリンの瞳には不安げな色が浮かんでいたが、ステラが頷いて微笑むと、彼女の顔に花が咲いた。


 「私は、カリンと一緒がいい」


 「ステラ!お前を信じてた!絶対私のところに戻ってきてくれるって!」

 

 肋骨が折れそうになるほどの力で抱擁され、息が詰まった。カリンを引き剥がすだけの力はステラにはなく、全力で押し返しても、せいぜい二人の間に僅かな隙間が生まれたくらいだった。カリンに可愛いと言われた前髪をせっかく整えたのに、ぐしゃぐしゃに撫でられて台無しだ。


 「…なんで。なんでなんですか、ステラ様」


 ミアの声には、ステラを小馬鹿にしてくる時の生意気な響きはない。呪文を唱えるかのような抑揚を欠いた話し方で、なんで、と繰り返している。見ているだけで心臓が締め付けられる思いだが、ここで慰めの言葉をかけても意味がない。


 「ミアと昨日の夜話してから、ずっと考えたんだよ。私の本当の気持ちって、なんなんだろうって」

  

 「昨日の…夜?私、ステラ様と会ってませんけど」


 「え、そこの広場で話したじゃないか。その、酔い潰れてた私を介抱しながら…」


 酩酊して吐いたことをカリンに知られたくないので、小声で囁く。


 「私の気持ちを尊重するって、ミアが確かにそう言ったよ」


 「言ってませんし、だからそもそも会ってません!昨日はステラ様が一人になったあと、とても何もする気になれなかったので、早くに宿に帰ったんです。夜に出歩いてなんていませんし、酔ったステラ様を介抱なんてしてません。仮に見つけたとしても、見なかったフリをしますよ」


 冷たい目でステラを見下ろし、去っていく姿が目に浮かぶ。そうだ、ミアならステラが酔いつぶれたくらいで心配するはずがない。だがそれなら、昨晩のあれはなんだ。酒のせいで幻覚を見たというのか。


 「ステラ様、ひどいですよ。カリン様を選ぶなら、ハッキリそう言えばいいじゃないですか。私がなにか言ったとか、なんでそんな嘘つくんですか?」


 涙声で訴えるミアからは、出会ったばかりの時のような子供らしさを感じる。思わず抱きしめてやりたくなったが、そんなことをすればまた気持ちが揺らいでしまう。


 「違う、嘘じゃない。ほんとに昨日の夜、ミアが」


 「ミア様はずっと私と一緒にいました。夜に外に出ていないのは、私が証言できます」


 リュカがステラの代わりにミアの頭を抱き寄せた。


 「どうしてミア様を傷つけるような事を言うんですか。カリン様を選んだのはステラ様のご意思です。それについては何も言いません。ですが、これはあまりにも…」


 リュカもステラの発言をでたらめだと思っているらしい。リュカのこの目をステラは知っている。ミアを傷つける、憎き相手を見つめる時の目だ。


 だがステラは嘘を言っているわけではない。確かに昨日、ミアはその場に存在したし、言葉も交わした。酒による幻覚にしては、それはあまりにハッキリしすぎていた。


 堪えていた涙が決壊し、リュカの胸に顔を埋めるミア。この数カ月の時間が霧となって消えたかのように、二人との間に確かな溝が生まれた。口の中が急速に乾き、うまく声が出せなくなる。


 そんなつもりじゃなかった。ミアを傷つけるつもりなんて、まったく無かった。そう言いたいのに、布が擦れるような乾いた音しか、ステラの喉からは出なかった。

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