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「ああ、もー!どうすりゃいいんだよ、私はぁ!」
やり場のない気持ちは酒にぶつけるに限る。一日考える猶予を与えられたはずだが、ステラは早い時間から酒場に引きこもっていた。月が出る前に、すでに酩酊状態に突入している。
「ひどいよ、カリンもミアも。どっちかを選べなんて、そんな、残酷すぎる!私は誰とも別れたくない…。なんで四人で仲良く出来ないんだよ。私か?私が原因なのか?今夜中に決めなきゃ。でも決められない。ミアたちと会えなくなるのは嫌だ。でもカリンとようやく再会できたのに、また別々になるなんて耐えられないよ。ううぅ…、お代わり。ビールお代わり!」
運ばれてきたビールを持ち上げる腕に力が入らない。頭がクラクラする。
自分は昔から優柔不断だった。どちらかを選べと言われると、選ばれなかったほうの未来を想像して、決めるのを躊躇してしまう。もし明日、ミアたちを選べばカリンはステラのもとを去るだろう。愛し合った恋人どうしが、また別々の道を歩むことになり、二度目の再会が出来るかどうかも分からない。
「カリンとずっと一緒にいたい。カリンといる時の私が、本当の私なんだから。でも、ミアとリュカはどうなる?もとは私が拾ったようなものだし、旅の途中で投げ出すなんて無責任すぎる。あの二人のことも、ずっと見ていたい。ああ、もう分からない。なにが正解なんだ!」
酒場にいる全員に聞こえる声量で、独り言を言うステラ。いつもなら荒れているステラに声をかける男などいない。しかし今日はなんだか変だ。ニヤニヤ笑いを浮かべた商人風の男が隣に座ってきた。そのあとも入れ替わり立ち替わり、何人かの男がステラのもとへ寄ってきては、下卑た視線を向けてきた。
カリンの言ってくれたことを思い出す。前髪を下ろしているほうが可愛い。再会した瞬間、後ろでまとめていたステラの髪をほどきながらカリンが言った。あのミアでさえ、ステラのことを女の子っぽいと認めたのだ。
朦朧とする意識の中で、額に触れる前髪の存在を感じた。今のステラは、男たちの目にどのように映っているのだろう。ステラの体を舐め回すように見てくる視線が、その答えだった。
「んだこらぁ、見んじゃねえ!」
そんなステラがいきなり立ち上がり、テーブルをひっくり返したのだから、さぞかし男たちは驚いただろう。
「ひっく、ちょっと雰囲気変えただけで…うっ…鼻の下伸ばしやがってよぉ…。そんなに私が可愛いか。ああ、そうだとも。不細工だったら誰も私を取り合わないわな。どっかのお姫様にでもなった気分だよ。ミア、リュカ、カリン。争え争え、私を取り合え!…うぅ、やっぱ嘘、ごめん。誰も私のせいで傷つけたくないよ…」
情緒の波が激しくなってくると、いよいよ限界だ。意識を保っているのもやっとで、喉元まで胃液とともに今朝の食事がせりあがってくる。
男たちを押しのけて酒場の外に駆け出し、盛大に吐いた。まだ早い時間帯なので通行人も多く、みんなステラの周りを避けて歩いていく。こんな姿をカリンに見られでもしたら…。いや、いっそのこと見て幻滅してくれればいい。
「ステラ様、またこんなところで…。なにやってるんですか、もう」
「み、ミア?」
ミアにとっては見慣れた光景だ。特に驚く様子もなく、背中を撫でてくれた。
「リュカと宿に帰ったんじゃなかったのか」
「ステラ様が心配で様子を見に来たんですよ。行くところなんて、どうせ酒場だろうなと思って」
「はは、なんでもお見通しか。おぇ…」
ミアの肩を借りながら歩き、リュカがカリンに殴られた広場までやってきた。
「昼間はああ言いましたけど、私はステラ様の意思を尊重しますよ。その顔見てたら分かります。カリン様と一緒がいいんでしょう?」
「いやでも、私はミアたちのことも」
「分かってます。ステラ様が私たちのことを大事に思ってくれてることも。でも自分の気持ちに正直になってください。私はステラ様がどんな答えを出しても、それに従います」
ミアはそれだけ言い残して、宿の方向へと去っていった。
いつの間にか月が昇っていた。




