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「ほんとにあの人に何もされてませんか⁉一晩帰ってこないから心配したんですよ!」
翌朝に昨日と同じ店で朝食を摂っていると、窓越しにミアと目が合った。大慌てで駆け込んできたミアは、テーブルの上の料理をなぎ倒す勢いでステラに詰め寄ってくる。
「大丈夫、何も無かったから。私が体調崩しちゃって、カリンが看病してくれてたんだよ」
「それなら私たちの宿まで送ってもらえばよかったのに。なんでそのまま泊っちゃうんですか」
「そうですよステラ様。よくご無事で帰ってこられましたね。てっきり身ぐるみ剥がれて、骨までしゃぶり尽くされているのものとばかり」
朝帰りしたステラをしかりつけるミアに、リュカも加担する。カリンに決闘で敗れたことがよほど悔しかったのだろう。だが二人ともカリンが怖いのか、直接文句を言えず、ステラを心配するという体で間接的に食ってかかっている。
「なんだお前ら、二人して朝からギャーギャーと。朝食くらい静かに食わせろ!」
カリンに一喝されると、リュカは口をつぐんだ。自分より圧倒的に強い人間には逆らえないのが、戦士の本能だ。
「そっちのが声でかいですけど…」
ミアは聞こえないくらいの小声で反抗していた。
「昨日は久々にステラの寝顔を拝めていい気分だった。こいつ熱でうなされて、ずっと寝言言ってたんだよ。それがさあ、なんて言ってたと思う?」
「え、なにそれ。私聞いてないんだけど」
いびきをかいていなかった事は確認したが、まさか寝言を言っていたとは。
「聞いてほしそうなので聞いてあげますが、ステラ様はなんて?」
面白くなさそうにミアが尋ねる。
「ずーっと私の名前呼んでたな。また私が殺される悪夢でも見たのか?」
「…覚えてない」
昨日は悪夢を見た記憶はない。カリンと額を合わせたところで意識が途切れ、夜中に目覚めたあとは徹夜だった。
「残念だったな、お前ら。ステラの夢に出られなくて」
「なんで負けた気分になるんでしょう。普段ならステラ様の夢に出たいなんて微塵も思わないのに!」
「分かりますミア様。この人にステラ様を奪われた気がして、どうも釈然としませんよね」
ミアとリュカ対カリンという対立構造が完全に出来上がってしまっている。仲良くやってもらいたいが、それは難しそうだ。
「人のことばっかり言うけど、どうせお前らもステラがいないのをいいことによろしくやってたんだろ?」
ミアが下を向き、リュカが斜め上を仰いだ。なぜ黙る。
「そ、そんなことよりもステラ様、行きますよ!もうこの町に用はありません。早く出発しましょう」
「必要な物資は買い揃えておきましたので、すぐにでも出られますよ」
右腕をミアに、左腕をリュカに引っ張られ、無理やり店の外へ連れていかれた。
「待てこら、人の女を誘拐するんじゃねえ」
追ってきたカリンが、ステラから二人を引き離す。腕は二本とも捕まれているので、カリンはステラの腰に手をまわして、体ごと引き寄せた。
「ステラ様は私たちと旅してるんですよ!」
「私のほうが先だよ。たった数か月しか一緒にいないくせに、偉そうな事言うな!」
「ステラ様に逃げられたくせに!」
「あれは誤解だったって分かっただろうが!」
ミアとカリンの激しい口論はしばらく続いた。まさか自分が誰かに取り合われる日が来るとは、夢にも思っていなかった。




