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58_相談

「……まぁ、ナルちゃんの意見は置いておいて、他の皆はどうでしょう?」

「がーん!」

ナルちゃんはわざとらしく「がーん」と発した。

基本無表情のまま、この様なあざとい表現する様子はなかなかに可愛い。


「はいはい!私も賛成ニャ!」

次に手を上げたのはスノウノさんだった。


「……スノウノさん、さっき「行ける所じゃない」って言ってませんでした?」

「普通なら行ける様な場所じゃないのは確かニャ。

でも、だからこそ行ってみたいのもあるニャ。

あと、最近はあまり暴れてなくて身体が鈍ってるニャ。

「魔獣の森」の魔物相手なら心置きなくやれるしニャ。」

「それで言うなら私も、クロー君が倒したという「貴族のお屋敷よりも大きい猪」とか、見てみたい気持ちはあります。

でも一応、私も中立ですかね。

危険を冒すほどかと問われると微妙ですから。」

スノウノさんの意見にフラウノさんも乗ってきた。


次にボクはセレナさんに意見を聞いてみた。

「ふんふん。

……セレナさんはどうです?」

「私は回復役の非戦闘員ですから、行けるとも否とも言えないと思います。

中立で。」


という事で、ここまでは賛成二人(ナルちゃん含めず)、中立三人といったところだ。

まぁ、別に多数決で強行採決する気は無いけどね。


「残るはわたくしとヴェロニカさんだけですか……。

ですが、危険と名高い「魔獣の森」ですよ?

攻略するにはわたくし達だけでは、冒険者としての経験が足りない気がしています。

これは魔物と戦う戦闘力以外の経験も必要となってくるものと思いますわ。

やはり安全なルートからコラペ行きを推します。」


ティアナさんは、やはり反対の様だ。

と、ここでスノウノさんから手が上がった。


「言いたい事は分かるんだけどニャ。

けどティアナ様、此処からコラペに向かうとなったら、最短ルートで行くとシルバラード領を通る事になるニャ。

そして、カダーと帝国が春先に戦争していた事を考えると、コラペも最前線のシルバラードに戦力を集めている状態と考えられるニャ。」

「……それがどうかしましたか?」

「いや、隣のジンジャー領から南部白日騎士団が集められていてもおかしくないって話ニャ。

あそこのノエル団長は元々シルバラード伯爵家の御令嬢だしニャ。」

「──ヒュッ!!」


驚きのあまり、ティアナさんの口から変な音が漏れる。

声というより、急激に喉が締まった為に生じた音の様だ。

……ティアナさん、なんでノエル団長さんが苦手なんだろう?

あちらの生まれの方が貴族家として格が上だからだろうか?

それとも、自分は北部白日騎士団の団長を辞めてしまっているので、その罪悪感を感じるからだろうか?

どちらもノエル団長さんは気にしなさそうだけどなぁ。


ティアナさんの様子を見て、これはダメだと悟ったヴェロニカさんは、最後に自身の懸念を語りだした。

「……あ〜、ティアナの方は置いておいて、ワタシも反対だ。

ただ、ワタシは「魔獣の森」を恐れている訳じゃない。

元々実家は「魔獣の森」のほとりにあったし、多少は慣れているのもある。

それよりも、ワタシが気になっているのはアリアさんの意図だ。」

「アリアさんの意図?

ボクらが魔王領に来るように勧誘する本心、という意味ですか?」

思わぬ点を語られ事に対して、ボクは聞き返した。


「そうだ。

だっておかしいだろ?

一人で何処へでも行ける行動力のあるあのヒトが、わざわざ魔王領へワタシ達を、とりわけクローを呼び込もうとするのには何か理由がある筈だ。

……ひょっとしてクローを狙っているのかも知れないじゃないか。」

「う〜ん、ボクをわざわざ狙う程の価値があるかは兎も角、疑念があるのは分かりました。

じゃあ、直接聞いてみましょうか。」


「…………は?」


ヴェロニカさんは、ボクの提案を聞き、呆けた様な声を出した。


**********


「──という訳で、ボクらを魔王領に勧誘する理由をお聞きしても良いですか?」

「……随分と明け透けに聞くんだねぇ。

うん、でもそのくらいの方が、私としても接し易いけれどね。」

不躾な質問をしたボクに、アリアさんは苦笑して答える。


ここはベルモンド上町の魔王教支部の講堂。

昨夜、アリアさんに直接話を聞こうなんて言っていたら、翌日、さっそくいらっしゃった所だ。

この場には、仲間の皆の他に、エマオさんとザーレンさんが居る。

他の魔王教徒さんも一目会いたがったのだけれど、流石に大人数過ぎると遠慮してもらった。

彼らには、講堂の外から伺う程度にしてもらっている。


「……で、君らを勧誘したい理由だっけ?

そうだねぇ……、もちろん前に言った「君達が居ると楽しそう」というのが一番の理由だよ。

でもまぁ、他にも理由があるっちゃある。」

「ほう?」

「……ねぇ、私の歳っていくつくらいに見える?」

「え……?!」

不意に突拍子もない質問が来て、ボクは面食らってしまった。


「アハハッ、怒らないから言ってみ?

ほらほら。」

「えぇと……、に、二十代くらいに見えます、よ?」


これは本当だ。

アリアさんの外見は二十代の様に見える。


「ふふ、私の逸話も知ってるくせに、二十代かい?

いや、ごめん。

困らせたい訳じゃなかったんだ。

……私もさ、結構な歳なわけだよ、これでもね。

魔族の血が入っているし、魔力もヒトよりは高いから、ヒトと同じ寿命ではないと思うんだけど、それでもいつかは私も死ぬ。

その時、魔王領が今のままだと、住民達は立ち行かなくなる。」


「住民さん達、ですか。」

「彼らもさ、人里から逃げるように、藁にもすがる思いで魔王領を目指して、運良く辿り着いた訳じゃん?

もちろん、彼ら自身にも原因があった場合も多いんだけどさ、せっかく「翼の魔王」を目指して縁あって集まった者達なんだ、見捨てるのはバツが悪くてね。

今でも、ちょっとした物資調達とかはしてあげてるんだよ。」


魔王様直々に物資調達までしてるんだ、ちょっと意外だ。


「その全員が私と生死を共にするなんて怖すぎるよ。

だから、この状況を何とかしてくれるヒトが居ないかな〜、って思ってたんだ。

そこに現れたのが、クロー君、君だよ。」

「え……?!」

「「あ〜〜…………。」」


えっ?!えっ?!

なんで皆……、ヴェロニカさんまで納得してる?!


「クロー君はさ、何と言うか……、変でしょ?良い意味でさ。

何か変えてくれると思ったんだよね。」

「「あ〜〜…………。」」


だから、それ止めてってば!


「なるほど。

アリアさんが期待する気持ちは、正直、痛いほど分かった。」

「良かった。

クロー君個人を、恋人や伴侶として意識してのものじゃなかったんですね。」

アリアさんの答えに、ヴェロニカさんは納得した様子だ。

そしてセレナさんも安堵したのか、少し踏み込んだ発言をする。


「……いや、それ目的もちょっとはあるよ?」

「「はぁ〜〜っ?!」」

予想外のアリアさんの答えに、ヴェロニカさんもセレナさんも、相手が魔王様である事を忘れた様な反応をした。


流石のアリアさんも、二人の鬼気迫る迫力にはタジタジの様子だ。

「い、いや、聞いてよ!

私達、有翼人種は飛行機能に適する為に、一般的には小柄な体格なんだ。

だから、例えばザーレン君の様なガッチリした大柄な体格のヒトは、ちょっと苦手なんだよ。

かと言って私だって、人族の未成年の子に手を出したい訳じゃない。

だから、成人前の体格で成人した様な成熟した人格を持ってそうなクロー君は気になってたんだよ。」


「……なるほど、理由は分かりましたが、だからと言って私達の恋人であるクロー君を差し出す気はありませんよ。」

セレナさんは、理由は納得したものの、当然の様に反対の立場を表明した。


「ま、そうだよねぇ……。

でもさぁ、恋人が二人も居るなら、二人も三人も一緒かなぁ、なんて……、分かった!止める止める!

だから、そんなに睨まないでよ!」


うっかり本音が漏れるアリアさんに、ヴェロニカさんとセレナさんの視線が釘を刺す。

と、ここでリックが手を上げた。


「はいっす!

ちょっと良いっすか?」

「ん?何だい、リック。」

渡りに船とばかりにアリアさんは即反応する。


「アリアさんって、小柄な男性の方が好みって事っすよね?」

「まぁ、有り体に言えばそうだね。」

「じゃあ、エマオさんとかどうっすか?

失礼っすけど小柄な方と思うっすけど。

それでいて成人済みだし。」

「へっ?エマオちゃん?

いやぁ、可愛いとは思うけどさ……。

私だって雌同士で子供作ろうとは考えないよ?」

「いえ、エマオさんは男っすよ?」

「…………へっ?!」


考えもしなかった事だったのだろう。

アリアさんはエマオさんに視線を向けたまま、固まってしまった。


「……はい、あの、僕は男、です。」

「マ・ジ・で?!」

急にアリアさんのエマオさんを見る目が変わる。

何となく野性味を帯びたような気がする。


「ほうほう……、そうなると話は別だよ。

……うんうん、良いねぇ。

君、魔王教の教主なんだよね?

じゃあ、私の言う事には従うよね?」

「ええっ?!」


あまりの急展開に、エマオさん本人も状況を飲み込めていない様子だ。

こりゃあ、助け舟を出さないと可哀想かな。


「アリアさん、ストップ!

流石にグイグイ行き過ぎです。

そんな、立場を利用して若い女性に言い寄る中年男性のような迫り方は、いかがかと思いますよ。」

「はっ!!

あ〜……、いや、ごめんごめん。

好みの男の子が見付かったと思ったら、つい抑えが効かなくなっちゃって。

もうちょっと時間を掛けて、じっくりと行くべきたよねぇ。」


……うん。

ちゃんと話し合った末で、双方の合意のもとで関係を築くなら良いのじゃないですかね?


********


結局、アリアさんはこのベルモンドに来る頻度が多くなるらしい。

そうやって、エマオさんとの仲を深めていく作戦だそうだ。


そしてその往復のついでに、「魔獣の森」を進むボクらを様子見してくれる事になった。

そう、ボクの「魔王領に行きたい」という案は通った形だ。

決定打となったのは、アリアさんがエマオさんに完全に狙いを定めた事だった。

これを見ていたヴェロニカさん、セレナさんは懸念無しと判断した様だ。

残るティアナさんも、「いっそ、「魔獣の森」を横断して実家に帰ってやりますわ!」と、ヤケクソ気味に宣言していたっけ。


こうして、ボクらの次の行き先は魔王領に決定したのだった。

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